不登校児の保護者の中には、子どもが不登校になったことで、自責の念に駆られる人がいます。
そして子どもの不登校が長引くにつれ、ますます思い詰め、心身に変調をきたす人までいると聞きます。
今回の記事は、子育てに悩む不登校児の保護者(特に母親)向けです。
ある不登校児童の母親との会話を参考に、
- 「不登校=子育ての失敗」ではない
- 「子育てに失敗した」と考えることの弊害
について説明しています。
不登校の事例
*実話をもとにしていますが、人物が特定されないように事実とは異なる描写が含まれます。
母親の悩み
もともとそのお母さんとは飼い犬の問題についてお話していました。
うちのワンコ、2歳にもなるのに、いまだに旦那が帰ってくると吠えまくるんですよね。
子どもは何度も噛まれてるし…。
まだ子犬だったころに、プロに相談するって言ってませんでしたっけ?
ええ。1度うちに来てもらったんですが、ワンコの様子を見て「2か月くらい預かりになる」って言われたんでやめました。お値段もけっこうしたし、しつけについてのブログや体験談、動画を見て自分たちで何とかしようって…。
でもうまくいきませんでした。なんかかわいそうで…。
結局、子育て同様、犬育てにも失敗したってことです。
不登校の歴史と状況
このうちのお子さん(男児)は、現在中学2年生で、不登校になりだしてから3年半になります。
- 不登校が始まったのは小学5年生のとき。原因は当時の担任。
- 小学6年のときには、新しい担任(問題の担任は学年度の変わり目に他校へ転任)の提案で、1日1‐2時間、オンラインで授業に参加する。
- 卒業前の一時期、学校に通うようになる。
- 運動会:不参加
- 修学旅行:半日遅れで参加(母親が合流できるところまで車で送っていった。)
- 卒業式:参加
- 本人の希望でIT教育に力を入れている私立の中高一貫校を受験し、合格する。最後まで迷った末に、友だちのいる地元の公立中学ではなく、知り合いのいない私立の中高一貫校に入学。
- 自力で通学(自宅から駅:徒歩10分+電車:20分+駅から学校まで:徒歩10分)できたのは最初の1週間ほど。その後は保護者が車で校門まで送るが、校舎に入ることができずに帰宅を繰り返す。
- 担任の手厚いサポートもあり、放課後に個人授業を受けに行ったりもしたが、現在は絶賛不登校中。
学習面では、
- この3年半、学校から提供された課題・宿題・テストは半分以上やっていない。
- 小学生の時、学校の授業とは関係のないプログラミングやタイピングのオンラインコンテストで入賞。
- 習い事はゼロ。(不登校になる前はスポ少・英会話・速読・タイピングなどに参加していた。)
その他、お子さんについては、以下のような特徴や傾向があります。
- 地元の友だちと週末に遊ぶことがある。(本人は出かけず、友だちが遊びに来る。)
- 漫画を読むか、オンラインゲームをしている時間が長い。
- 夜は「明日は学校に行けるかも」と言うのに、朝起きることができない。
- 体力がない。食が細い。
- 2E の可能性が高い。(IQが高い・1つのことにのめりこむと周りが見えなくなる・繊細、など。)
- 「死にたい」とか「どうぜ僕なんか死んだほうがいいんでしょ」と自殺をほのめかしたことがある。
- 無言の怒りをワンコや家族にぶつけることもある。
母親の子どもへのかかわり方
実は、このお母さんは幼いころから息子さんに2E的な特徴があることに気づいていました。
- 1からnまでの和を求める計算(1+2+3+…=n(n+1)/2)の概念を保育園の時点で母親に説明
- 人と目を合わすのが苦手
- 小学校に入るころまでは、強い口調で注意されたり、ちょっとした失敗を笑われると、号泣したり、お漏らしをした
なので、基本的にお母さんは、①子どもが傷つく可能性が高いことはしない、②注意はするが𠮟らない、③子どもの欲求を満たす(ほしいものを与え、したいことをさせる)、というスタンスで息子さんを育ててきました。
実際、不登校前は、そのやり方で何ら問題がなかったどころか、周囲から「どうすればあんな優秀な子が育つの」とうらやましがられていたほどです。おそらくその頃のお母さんの鼻は、ピノキオよりも高くなっていたのではないでしょうか。
ところが、「末は博士か大臣か」と期待していた自慢の息子さんが、今では高校すら卒業できないかもしれない状況に陥っています。(中高一貫校に在籍しているので、高校1年生までは自動で上がれます。)
不登校が始まったばかりのころは、息子さんにそれとなく学校に行くように促していましたが、それが何の変化ももたらさないと分かると、今度は学校と同じようなスケジュールで自宅学習ができるように環境を整えました。
けれど息子さんは、どんな目覚ましを使おうと、無理やり起こそうと、午前も半ばまで起きることができません。その上、やっと起きてきても、
- きちんと食事をとらない
- PCやタブレットでできる分野の勉強以外は全くやる気を見せない
- 学校でもらったプリントを渡しても、ちょっと親が目を離すと、やりかけのまま投げ出してゲームに没頭する
という有り様です。
ついに業を煮やしたお母さんは、ご主人に言ってゲームやアプリに使用時間制限をかけてもらいますが、息子さんのほうが一枚上手で、すぐに制限を解除してしまいます。
それならと、タブレットやゲーム機を隠したこともありましたが、結果、怒って家中のドアや窓に鍵をかけてお母さんを締め出したり、ワンコに八つ当たりするなど、逆効果にしかなりませんでした。
教育相談にも行ったし、オンラインで心理カウンセラーにも相談したし、小児科医の診察も受けたのに、よくなるどころかどんどん悪くなってる気がします。
ほんと、もうこれ以上、何をどうしたらいいのか…。
私が話を聞いたのは、ちょうどこのお母さんがどうにもならない息子さんに手を焼き、問題はあっても自分にだけは甘えてくるワンコに慰めを見出していた頃でした。
子育ての評価
事例のお母さんは、落ち込んでというより半ば自虐的に「子育てに失敗した」と言っていましたが、そもそも子育ての失敗(や成功)はどうやって見極めるのでしょうか。
子育ての期間
「子育て」とは文字通り「子どもを育てること」です。けれどその対象である「子ども」に関しては、人それぞれ思い浮かべる年齢層が違います。
いくつかの辞書は、「子ども」を「大人」の反対語ととらえ、「乳幼児から中学生くらいまで」のように定義しています。
一方、「子ども」を「親」の反対語とみなせば、両者が生きている間中、子育ては続いていることになります。
知り合いの中には大学4年生の息子さんが突然引きこもりになったという方もいますし、順風満帆の人生を送っていると思われていた人が、40代・50代で突然新聞沙汰になる事件を起こしたというケースもあります。
そんな風に考えると、小中学生の時点で不登校だからといって、子育てに失敗したと判断するのは時期尚早ではないでしょうか。
子育ての指針
子育ての終わりがいつだろうと、成功か失敗かを判断するには、どこに向かっているのか、何をもって成功とするのか(あるいは失敗とするのか)という指針が必要です。
不登校児の親(特に母親)は、子どもが登校さえするようになれば、「成功」とは言わないまでも「失敗じゃない」と考えている人が多いように思います。
おそらく「普通であること」「みんなと同じであること」を指針にしているのでしょう。
けれど、私たちは一人ひとりみんな違います。
金子みすゞさんの『私と小鳥と鈴と』という詩の中に、「みんなちがって、みんないい」という一節があります。
内気な子がいれば、おしゃべりが止まらない子がいます。じっくり丁寧に作業をする子がいる一方で、少し雑でも時間内に終わらせたいと思う子もいます。運動が得意な子・苦手な子、集団が苦手な子・ひとりでいるのが苦手な子…。
子育てに正解はなく、子どもが違えば、育て方も違って当然です。
その子に合ったやり方とペースで、「得意」を伸ばし、「苦手」を緩和、または克服する。
それこそが子育ての指針だと、私は思います。
\ 金子みすゞの童謡詩は、私たちにたくさんの気づきを与えてくれます。/
「子育てに失敗した」という考え
子育てに終わりはなく、万人に通用する正解もないのであれば、『不登校=子育ての失敗』ではありません。
理屈の上ではそうかもしれませんけど…。
だったら、こんな風に考えてみてください。
子育ては親にとって一種の長期プロジェクトですよね?
「子育て=プロジェクト」なら、「子ども=プロジェクトで制作した作品」、「子育てに失敗した=子供は失敗作」ということになりませんか?
「なんてひどいことを!」と、私の言葉にショックを受けたり、憤慨した人もいらっしゃったことでしょう。
けれど認めようが認めまいが、意識していようがしていまいが、「子育てに失敗した」と考える親は、自分が「こうあってほしい」と思い描いていた子ども像(指針)に沿わない自分の子どもを「失敗作」とみなしている可能性が高いです。
少なくとも事例のお母さんは、不登校前の息子さんから思い描いていた将来像をあきらめることができていません。
そして息子さんは、親が自分に失望していることを敏感に感じ取り、ますますつらく苦しい思いをしているのではないでしょうか。
犬にあたったのも、自殺をほのめかしたのも、そうするしか自分のつらさや苦しさを伝えることができなかったからだと思います。
キツイ言い方かもしれませんが、親が「子育てに失敗した」と思っているままでは、何をやっても状況は改善されないでしょう。
保護者への提案
では、親子ともども楽になるには、具体的に誰が何をどうすればいいのでしょうか。
私のお勧めは、保護者側の頭の切り替えです。
- 子どもは自分の所有物でも創作品でもなく、自分とは別の人格だと自覚する。
- 「将来こうなってほしい」という自分の理想の子ども像(子育ての目標・指針)を完全にリセットする。
- お子さんのありのままを見つめ、受け止める。
- ポジティブ思考:過去の子育てを振り返って、後悔するのではなく、何かを学んで将来に活かす。
意識が変われば、お子さんとのかかわり方も変わってくるはずです。
私が親なら、
- 命の危険がない限り、口出しや手出しはせず、子どもを信じて見守る・待つ:自分では危険や失敗から子どもを守っているつもりでも、実は子どもから学ぶ機会や自信を奪っている可能性が高いから
- 子育ての迷いや疑問は、「どうしたらいいと思う?」と子供に相談する:子どもは、親にも弱さや悩みがあると気付き、意見を求められたことで自尊心が育つから
- 「自分が子どもの年代だったら」を念頭に置いた言動を心がける:子どもの視点を理解するため
- 子どもに「未来予想図」(「10年後何してると思う(何していたい)?」)をきいてみる:子どもに未来に目を向けさせられるし、未来は今の心の声を反映しているから
- どんな答えだろうと、否定しない。答えがなかったり「わからない」なら、「じゃあ、わかったら教えてね」のように言って1度に深追いはしない
あたりから試してみます。
けれど、何よりもまず「不登校=子育ての失敗」と考えるのをやめましょう。
子育てに正解はありません。だったら、失敗なんてしようがないと思いませんか。
子育てには終わりもありません。ならば、今の時点で「失敗だ、成功だ」と一喜一憂することに意味はありません。
それでも、誰かにこのもやもやを聞いてもらいたい…。
不登校児童・生徒の保護者向けテスト
*この先は頭の切り替えができたと思えるまで読まないでください。
それでは久々に子ども時代に戻ってみましょう。
今からテストをするので、紙と筆記用具を用意してください。(答えを頭の中で考えるだけではだめです。)
それでは問題です。
「ついに不登校問題が改善されたと思える状況を、絵か文章で詳しく表現してください」
答えは次のページにあります。
先に答えを見るなんてズルはダメですよ!
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