残念ながら、親の遺産相続でもめる人は少なくありません。
「兄弟姉妹と仲がいいから、うちは大丈夫だろう」と思うのも過信かもしれません。
今回は、
- 親の遺産相続でもめる原因
- 兄弟姉妹間でもめることがないよう、子供たちができること
の2点についてお話します。
親の遺産相続でもめる原因
相続トラブルは原因は様々ですが、遺産が少なければもめないというわけではありません。
令和5年度の司法統計(家事編)を見る限り、むしろそれほど高額とは言えないケースほど、遺族間での争いが多いという結果を示しています。
裁判所での遺産分割調停によって問題が解決したケース:7234件
- 遺産額が1000万円以下:2448件(全体の約33%)
- 遺産額が1000万円~5000万円以下:3166件(全体の約43%)
遺言書の有無と内容
親の遺産を分割する場合、遺言書があれば、原則としてその遺言書の指示に従います。
しかし遺言書がない場合は、
- 相続人全員で遺産分割協議を行い、相続人全員の同意のもとに割合を決める
- それぞれが法定相続分を受け取る(各相続人の事情等は考慮せず、平等な遺産分割をする)
ことになります。
さらに、協議がまとまらないときや遺言に不服がある場合は、家庭裁判所に調停申し立てを行うことができます。
つまり、遺言書がないほうが、あるほうよりもめる確率が高いと言えます。
また、遺言書があっても、分割の割合が法定相続分に比べて明らかに不平等だったり、意外な相続人(隠し子や公益法人等への寄付)があると、相続トラブルに発展しがちです。
生前贈与の有無
一部の相続人や相続人以外の人が生前に高額の贈与を受け取っていた場合にも、衝突が起こりやすくなります。
これは生前贈与された利益が特別受益と認められると、相続の際にもらえる遺産が減る可能性があるためです。
同居や介護の有無
- 亡くなった親と同居し、日常の世話や介護をしていた
- 同居はしていなかったものの、兄弟姉妹の中で介護負担の割合が高かった
介護には肉体的精神的のみならず金銭的な負担が伴うので、法定相続分以上の遺産をもらえるはずと考える相続人がいても不思議はありません。
*民法には「寄与分」という制度があり、諸条件を満たせば、介護で貢献した人の相続分に寄与分が上乗せされることがあります。
ただ、逆に同居していたことで、財産を私物化したり、使い込んでいたのではと疑われる相続人も決して少なくありません。
いずれにしろ、同居や介護が、感謝されるのではなく、争いの原因になったのでは、亡くなった親御さんも浮かばれないでしょう。
兄弟姉妹の仲
残念ながら、長年仲が悪く、できるだけ顔を合わせないようにしていた兄弟姉妹が、葬儀や相続をきっかけにますます険悪な関係になってしまうという話は後を絶ちません。
また、本来相続人だけで決めるべき遺産配分に相続人の配偶者が口を出したことで、これまで仲が良かった兄弟姉妹に不和が生じることもあります。
不動産の遺産
遺産の分配でトラブルの種になりがちなのが建物や土地といった不動産です。
不動産には、
- 賃貸等で収益を上げている物件
- 利用価値のほとんどない物件
の2種類があり、
- 評価額はつくが、現金のように簡単に分割できないうえ、共有名義にはデメリットが多い
- 維持管理に手間がかかるうえ、所有している間は固定資産税を払い続ける必要がある
ことがもめる原因になっています。
遺産相続でもめないためにできること
遠い親戚に、親の遺産相続でもめた後、実家を受け継いだ相続人と没交渉になった人がいます。
その人は3姉妹の次女で、他県に嫁ぎ、夫婦ともに医者をしていましたが、実家で親と同居していた長女(既婚・夫婦とも教員)がすべての不動産(家・家の敷地・わずかな田畑)を受け継いだにもかかわらず、現金や預貯金・保険金等の金銭的遺産も他のふたりの相続人と同額だったことに納得がいかず、姉妹で話し合った末に長女よりも高額の金銭的遺産をもらい、その後完全に縁を切ったそうです。
聞くところによると、2人の性格はかなり違っていたようですが、それでも親御さんが亡くなるまで姉妹の仲は良くも悪くもなかったと言います。
このような事態を避けるためにも、親の遺産相続は円満に進めたいものですが、どうすれば兄弟姉妹間でもめずに済むのでしょうか。
親に遺言書を用意してもらう
先に述べたように、遺言書があれば、その指示通りに財産を分割するのが原則です。
そこで、1番いいのは親に遺言書の作成を頼むことです。
でも親に遺言書を作ってほしいなんて、早く死んでほしいって言ってるみたいに思われそうで気が進まないんだけど…。
確かに話のもっていき方やタイミングが悪いと、そんな風に思われてしまうかもしれません。
おすすめのタイミングは自分の身近なところで誰かが亡くなった時です。
「実はこの間知り合いのお母さんが亡くなられたんだけど、誰が家と家の建っている土地を相続するかでもめてるみたい。兄弟姉妹とは仲がいいって話だったんだけどね」と切り出してみましょう。
その知り合いのことを親御さんが知っている必要はありませんし、本当にもめているかどうかも関係ありません。
要はご自身の親に、仲がいい兄弟姉妹の間でも相続トラブルが起こることをまずは認識してもらえばいいわけです。
続いて「不動産は共有にすると後々問題が起こる可能性が高いし、誰か一人が相続するとなると、たいてい他の人の相続分を買い取る形になるから、現金の遺産が少ないと相続する人は自分のお金を持ち出さないといけないこともあるんだって。私の知り合いは亡くなったお母さんと同居してて、夫婦でお母さんの面倒も見てたから、確かに名義はお母さんになってたけど、まさか他の兄弟姉妹から自分たちが何年も一緒に住んでた家や土地まで平等に分けろって言われるとは思ってなかったみたい。ちゃんと遺言書があって、お母さんが誰に何をどれだけ残すってはっきり書いておいてくれたら、仲たがいすることもなかっただろうにね」と、相続トラブルの原因と遺言書の必然性を伝えます。
それでも親御さんが自ら遺言書を作ろうという気になってくれなければ、最後にダメ押しで「私は遺言書がないせいで兄弟姉妹ともめたり、相続がきっかけで疎遠になったりするのはイヤだな」と言ってみるといいかもしれません。
元気なうちにやりたいことをやりつくすのに役立つ「終活」を一緒にすすめるのもいいでしょう。
なお、遺言書は自筆証書だと条件を満たしていない等の理由で無効になるリスクがあるため、公証役場での公正証書遺言がおすすめです。
ただ、公証役場では遺産の分割相談には応じていないので、複数の相続人それぞれに不満が残らないようにできるだけ配慮した内容にしたほうがいいでしょう。
*公正証書遺言は、たとえ内容に不満のある相続人が裁判をおこしても、その内容をひっくり返すことは難しいと言われています。
兄弟姉妹での話し合い
「寝耳に水」の話ほど人を驚かせるものはありません。
兄弟姉妹の仲がよければ、できれば親御さんを交えて、生前贈与も含め、遺産分配について話し合うようにしましょう。
日頃から話をしておけば、親御さんの意向を確認できますし、相続人全員がより納得した公正証書遺言の作成へとつながります。
兄弟姉妹の仲が悪い場合は、もしかすると話し合いの場さえ持てないかもしれません。
しかし、それで親御さんが将来的に相続トラブルが発生することを予期できれば、かえって公正証書遺言を作成してもらうきっかけになるはずです。
親の遺産は「棚から牡丹餅」
うちの家族(私と妹たち)は親の財産はあくまでも親のものだと思っています。
遺産は、もらうのが当たり前だと思うから争いの素になるのであって、「棚から牡丹餅」のように「もらえてラッキー」だと思えれば、たとえもらえなくて、他の相続人より少なくてももめようがありません。
もしも「遺言書がなく、兄弟姉妹の間で相続トラブルが予想されるけれどもめたくはない」という人は、相続を一切放棄する(相続放棄)か、遺産だけを放棄(遺産放棄)か、ほかの相続人に遺産の分割をゆだね、もらえる分だけもらうという手もあります。
遺産放棄と相続放棄
遺産放棄とは、相続人としての地位を維持した状態で、遺産分割協議や相続手続きには関わるけれど、遺産は受け取らないことを意味します。ただし、故人の借金については、遺産放棄しても債務がなくなるわけではありません。
一方、相続放棄とは、相続人としての権利や立場を完全に放棄することです。したがって、借金を含む一切の相続財産に関する手続きや遺産分割協議に関わる必要がなくなります。
なお、遺産放棄は他の相続人に対して意思表示するだけで完了しますが、相続放棄は被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以内に裁判所での法的な手続きが必要です。
それでももめたら
上の2つの方法が役に立たないときは、おそらく遺産分割協議をしてもらちが明かず、家庭裁判所に調停申し立てをすることになるでしょう。
その場合、令和5年度の司法統計(家事編)によると、代理人弁護士が関与したほうが圧倒的に調停が成立しやすいようです。
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まとめ
相続トラブルの原因は様々ですが、相続がきっかけで兄弟姉妹が仲違いをしてしまうような事態は避けたいものです。
できれば親御さんも含めて兄弟姉妹間で十分なコミュニケーションをとり、最終的には親御さんに公正証書遺言を作成してもらうことで相続トラブルを回避しましょう。
そして、どうしても衝突が避けられない場合は、専門家を上手に利用して早期解決を目指しましょう。