近隣トラブルと言うと、ここ数年毎年「騒音」が第1位、続いて「臭い」「ゴミ出し」「駐車・駐輪場」が2~4位を争っています。
しかし田舎では、あくまでも肌感覚ですが、人間関係(近所付き合い)と地所に関するトラブルのほうが多い気がします。
そこで、今回は地所関連の近隣トラブルの中から、樹木の剪定・伐採に係わる3つのトラブルについて紹介したいと思います。
ただし、近隣トラブルと言っても、裁判沙汰になったわけではありません。
いずれのケースにおいても関係者は全員、数世代にわたってその土地に暮らしている人たちばかりだったので、良くも悪くも田舎ならではのやり方が苦情処理に適用されました。
「今後のことを考えると、法的にどちらが正しいかより、表面的に波風を立てないほうがいい」
おかげでそれぞれのケースで関係者の一方に少なからずわだかまりが残りました。
この記事は、田舎への移住や土地の購入を検討している人、現在田舎で同様のトラブルに見舞われている人向けです。
たとえどんな決断を下すにしろ、事前に田舎の実態を知っておくと、あとあと後悔せずに済むかもしれません。
*国内のすべての田舎が私の地元と同じだとは限りません。
*私個人が田舎のやり方を推奨しているわけでもありません。
ケース1:成長した木のせいで田んぼに日光が当たらない
関係者
田んぼの所有者:Aさん
- 60代半ばの男性
- 地方公務員を定年退職後、兼業でやっていた農業に従事
- 地区内の長をしている(無償)
- 押しが強い
横の山林の所有者:Bさん
- 70代半ばの男性
- 無職・山林は(体力的に難しいため)長年放置状態
地所の位置関係
Aさん所有の田んぼの周囲は、南側のBさん所有の山林以外、開けた平地になっている。
事の起こり
「Bさんが所有する山林のせいで日光が遮られ、米が不作になってきているので、田んぼ脇(南側)の木を切るように」とAさんが主張。
アクション
「山林が原因で米が不作」というAさんの主張・苦情に疑問はあったものの、BさんはAさんが紹介した業者(Aさんの知人)に樹木の伐採を依頼(支払い)。
最終的に切り落された枝はその場に放置され、木材として価値がある幹だけを業者がトラックで撤去。
その後
撤去した木材の運搬費用は請求されなかったが、伐採業者が自社で加工し、販売したという噂が流れたこともあり、しばらくの間近所では「Aさんだけが得をした」と囁かれていた。
法的側面
日照権侵害:地域の実情や利用実態、日照阻害の程度など、様々な要素を個別にかつ具体的に判断して、日照の侵害が受忍限度を超えるかどうかを総合的に考慮したうえで決定されるもの
参考資料:
Yahoo!JAPAN「田んぼの日照権についてお聞かせください。」
素人の考察
過去には田畑の日照権侵害に関する判例もあったようですが、Aさんの場合、どんな調査もしておらず、侵害を裏付けるデータも存在しないため、おそらくBさんは樹木の伐採要求を退けることも可能だったと思われます。
ケース2:越境した木を切らせてほしい
関係者
C家:70代後半の夫婦+50代の息子
- 家族で小規模工場経営
D家:80代前半の女性+50代の娘
- 主だった野菜は自給自足
地所の位置関係
C家・D家とも、山林は家屋から1.5mほど後方、3mほど高い場所に位置している。
事の起こり
C家からD家に対して「裏山の境界からはみ出している木を切らせてほしい」との申し出があり、D家が承諾。
アクション
D家に連絡をせず、ある日越境していた樹木の枝をC家一家が自分たちで剪定。
切り取った枝は、大半がD家の敷地内(娘が何種類かの幼木を植樹していた上)に積み上げられて放置状態。残りはバーベキュー用なのか、C家の敷地内に結束して留置。
C家は同じ時に、自家の山林内の樹木のうち、家屋に近い位置に生えていた十数本を根元だけ残して伐採。
その後
D家からC家に対して「剪定した枝(太いものは直径10cm以上、長さは大半が2m以上)を半分の長さに切ってもらえれば、D家で引き取る」と申し出るが、「枝の処分をC家に頼むのは筋違い」と断られる。
D家の2人で細めの枝だけ枝切りばさみやのこぎりで切断し、束ねる。
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法的側面
民法新233条3項(要約):
- 越境された土地所有者は、以下の3つの条件にずれかにあたる場合、越境した枝を自ら切り取ることができる
- 枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しない
- 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない
- 急迫の事情がある
剪定費用:
- どちらが費用を負担するか、法律には明記されていないが、基本的には木の所有者が負担する
- 支払いを拒絶された場合は、裁判をして請求金額を確定させる必要がある(最悪持ち出しになることもある)
切った枝の処分:
- 新民法233条3項に基づいて切り取った場合、切った人がその枝の所有権を取得し、その枝を自由に処分することができる
- 廃棄物処理法16条(要約):だれもむやみに廃棄物を捨ててはいけない
注意点:
- 剪定のために隣の土地に立ち入る場合は日時等を連絡する必要あり
- 越境による実害がないのに、剪定を強行すると違法になる可能性あり
- 契約内容(同意事項等)を文書にしておかないと、「話が違う」「原状回復しろ」などと、後々問題になることも
参考資料:
負動産の窓口「2023年4月から越境した枝を切除できる!?費用は誰が負担?【2021年物権法改正<民法233条>いつから?】」
弁護士ドットコム「隣家に落ちた剪定枝は誰の物?不法投棄?」
素人の考察
切った枝の所有権は切った人(C家)にあるため、C家に処分する責任があると考えられます。
また、D家の敷地内に放置するのは不法投棄と見なされる可能性がある以上、C家の「筋違い」という主張は必ずしも正しいとは言えないのではないでしょうか。
ただ、C家が業者に頼まず、自ら作業にあたったのは、D家が剪定費用や処理費用を払わずに済むように配慮したからという可能性も無きにしも非ずです。(D家では庭木も含め、樹木の剪定・伐採は常に業者に依頼しています。)
その思いやりに対して、D家が切った枝の処分を迫るのは得策とは言えないでしょう。
ケース3:台風で木が倒れたら、被害を受ける可能性がある
関係者
E家:60代後半夫婦
- 定年退職後は農業に従事(お米はJAに出荷、野菜は自給自足用)
F家:70代前半女性
- 年金・死別した夫の遺産(預貯金)で生活
- 自分用に畑でわずかな野菜を栽培
位置関係
E家は高台の上、F家はE家に続く坂道の出発地点付近に建っている。
E家が数世代にわたって同じ場所に居を構えているのに対し、F家は現在の居住者が40年ほど前に建てたもの。
事の起こり
F家からE家に対して「F家の斜め上、E家へ上がる坂道の斜面に植わった大木について、台風や土砂崩れなどで倒れると、F家を損傷する危険性が高いので、切ってもらえないか」と打診。
アクション
E家が業者に見積もりを出してもらったところ、伐採・撤去に60万円ほどかかると判明。
F家に対して「費用が払えないので、伐採はできない」と返答。
その後
何の対策も取られないまま、数回の台風・大雨を体験。大木の状態に大きな変化なし。
法的側面
民法第717条第2項(要約):
- 竹木の「栽植・支持(植樹や栽培の状況や木が傾いた状態の補強)」に瑕疵(問題)がある場合、賠償責任が生じる=倒木対策を講じていれば、たとえ損害が発生しても竹木の占有者・所有者に責任はない
参考資料:
ベリーベスト法律事務所「台風による倒木で家が壊れた! 賠償責任は誰にあるのか?」
素人の考察
おそらく木の補強には伐採・撤去ほど費用が掛からないのではないでしょうか。
また、もし最悪の事態が起こって、F家の家屋だけでなく、人命にまでかかわるようなことになれば、損害賠償の費用は伐採・撤去費用の比ではないと思うのですが…。
最後に
残念ながら、上の3例ではそれぞれ、法的に見れば優位な立場にいそうなBさん、D家、F家の人々に不安や不満が残りました。
それでも誰一人、グチを漏らす程度で、ことを荒立てようとはしません。
Bさん、D家、F家の人々も、高齢者だったり、女性だけで暮らしていたりと、有事の際には近所の人の力を借りなければならないことがわかっているからです。
それをよしと言うつもりはありませんが、田舎とは「遠くの親せきより近くの他人」が支えあって暮らしているところです。
実際、F家のケースでは同居していない息子さんがE家に再度交渉に行こうと言ったのを、母親が止めたと聞いています。
これは私の個人的な見解ですが、こういった近隣トラブルが発生したときには、
- 法的にどんな権利や責任があるか、話をする前に確認しておく
- 口約束ではなく、必ず取り決めを文書の形で残しておく
ことで、一方だけが嫌な思いをせずに済むように思います。
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