ある保護者の身に実際に起こった話です。
うちの子が担任の先生作の賞状をもらってきたんだけど、子どもの名前が間違ってるんだよね。
実はこれが初めてのことじゃなくて、学級通信の中の名前も間違ってたし、ママ友によると「あの担任、いつもお宅のまさひろ君のこと、まさはる君って呼ぶってうちの子が言ってたよ」って。
「しょっちゅう名前が間違ってるんで、今後は気を付けてもらえませんか?」って、担任の先生にお願いしようと思ってるんだけど、モンスターペアレントだって思われないかな?
この保護者のお子さんが通う小学校は、
- 全校でも児童数は60名以下
- 必要に応じて2学年が一緒に学ぶ複式学級の形をとっている
- クラスメートは10名
- 校内に似た名前の子はいない
です。みなさんはこの保護者をモンスターペアレントだと思いますか。それとも保護者として当然の要求をしているだけだと思いますか。
この記事では、どうすればモンスターペアレントだと思われずに、保護者としての意見を教師や学校に伝えられるのかご紹介します。日本国内のモンスターペアレンツだけでなく、米軍基地内の学校で目にした「ヘリコプターペアレンツ」たちも反面教師にした方法です。
アメリカにはモンスターペアレントに似た意味を持つ「Helicopter Parents(ヘリコプターペアレンツ)」という言葉があります。子供の言動を終始見張っている過保護または過干渉の親が、上空でホバリングしているヘリコプターを連想させることに由来する言葉です。
なお、ところどころモンスターペアレントに関連した和製英語やカタカナ語、「日本の中のアメリカ」で使う英語表現についても説明しているので、ぜひみなさんの豆知識や雑学に加えてみてください。
モンスターペアレントとは?
モンスターペアレントは「教師や学校に対して、理不尽な要求や非難をしたり、苦情や文句を申し立てる親」を意味します。「モンペ」や「モンペア」とも呼ばれ、大半が次から次へと学校や教育関係者に言いがかりをつける常習のクレーマーです。
英語に「Claimer」という単語はありません。「クレーマー」とは「権利を主張したり、要求を押し通す」という意味の「Claim」に「(~をする)人」の意味を表す「-er」をつなげたカタカナ言葉です。英語での正しい表現は「Complainer(不平を言う人)」になります。
モンスター(ヘリコプター)ペアレントの特徴と事例
モンスター(ヘリコプター)ペアレントには以下のような特徴が見られます。(注:事例はあくまでも一部です。)
- 我が子第一・過干渉
- 自分の子どもを端の方ではなく、センターにしてクラス写真を撮り直すよう担任に要求。
- 自分の子どもは同学年の子どもの中でもとびぬけて頭がいいと主張。AAPSプログラムに入れるか、飛び級させるよう学校に要求。それができないのであれば、通常の授業のペースを上げるか、より高度な個別の課題を与えるよう要求。
「AAPS(発音は[ɑːps])」は「The Advanced Academic Program and Service」の略で、「同世代の子どもに比べて、突出した才能と精神性を備えた子どもむけの英才教育プログラム」を意味します。アメリカ国内の学校では「AAPS」ではなく、「Talented and Gifted (TAG) Program/Education」という呼び方のほうが一般的です。ちなみにTAGの発音は[tˈæg]です。
- 過保護(感情的にまくしたてるケースが多い)
- 子どもがクラスメートとけんかして泣きながらうちに帰ってきた。相手の子どもと保護者に注意するよう担任に要求。また今後校内では自分の子どもがその子供と関わらずに済むよう対策をとることも要求。
- 他責
- 内申に差し障るから、通知表の成績を上げるよう教科担当教師に要求。できが悪かったのは教師の指導力不足。
- 昼休みに子どもが転んで手とひざに切り傷を負ったのは教師の監督不行き届き。その後病院に連れていかなかったのは保健室の先生の判断ミス。
- 批判=個人攻撃(「自分は正しい」という自己防衛の感情から攻撃的な態度に出ることが多い)
- 子どもの問題行動について複数回連絡してきた担任が気に食わない。担任を変えるか、クラスを変えるよう校長に要求。
- 自分の子どもがいじめられていると主張。調査の結果、「そういった事実はない」という学校側の説明に納得せず、教育事務所に再調査を要求。同様の結果報告に、SNSで苦情を拡散。
いじめの調査に関しては「いじめ防止対策推進法」(平成25年法律第71号)で学校の法的義務が定められています。
- 学校・教師=無料奉仕を提供すべきサービス業者・従業員
- 給食費の支払いを拒否。「義務教育の期間中は、自治体が給食費を負担すべきだ」として市役所に苦情の申し立て。
- 誤った義務と権利の主張
- 「授業中の携帯の使用は禁止。使用した場合はいったん職員室で預かり、下校時に返却」という校則に従った教師に対して、子どもが携帯を使えなかった(職員室で預かっていた)時間分の携帯料金を請求。
- 「校内で起こった問題は学校で処理すべき。学校からの呼び出しに対応する義務はない」として問題行動を繰り返す子どもに関する話し合いへの出席を拒否。
モンスターペアレントの被害者
モンスターペアレントの言動は、得てして学校の業務に支障をもたらします。精神的に追い詰められた教師が、休職や辞職に追い込まれたという話も珍しくありません。字義通り、モンスターペアレントの主たる被害者は、学校及び教育関係者です。
けれどその弊害はモンスターではない他の保護者にも及びます。
- 学校・教育関係者によっては、それが何であれ、学校側に何かを要求する保護者のことは全員モンスターペアレントと見なして警戒している
- 保護者はモンスターペアレントのレッテルを貼られるのを恐れて、妥当な要求すら躊躇してしまう
最初に紹介した保護者がそのいい例です。
このような状況下では、問題が解決されず、結果的に子どもの安心・安全が脅かされることにもなりかねません。
「問題を解決したい。それには学校側との話し合いが必須。でもモンスターペアレンツだと思われたくない…。」
いったいどうすれば、学校側と平和的で建設的な話し合いをすることができるのでしょうか。
「レッテル」はオランダ語の「Letter」に由来したカタカナ言葉です。「レッテル」の英語は「Label(ラベル。発音は[léibəl])」です。
「モンスターペアレント」という言葉は、日本人の元教師が「モンスター(Monster)」と「ペアレント(Parent)」から作った和製英語です。
学校側と円滑なコミュニケーションを図るには?
「大切なのは子どもの気持ち。モンスターペアレントだと思われようが、気にせず要求を伝えればいい」と言うのは簡単です。けれど教師の中には保護者の言い分に腹を立て、八つ当たりや仕返しでその家庭の子どもにきつく当たる人がいます。あってはならないことですが、過去にはそれで裁判沙汰も起こっています。
本末転倒の結果を迎えないようにするためには、学校側に警戒心を解いてもらい、こちらがモンスターペアレントではないと気づいてもらう必要があります。
お勧めはモンスターペアレントを反面教師としたアプローチです。事例を通じてモンスターペアレントの性格や行動の特徴を知り、学校と関わる際に同じ轍を踏まないように注意します。
モンスター(ヘリコプター)ペアレントを反面教師にするには?
モンスターペアレントと「同じ穴の狢」と思われずに、学校側と円滑なコミュニケーションを図るには以下の点に留意する必要があります。
要求ではなく要望する
「要求」も「要望」もどちらも「(相手に)何かを求めること」を意味します。けれど「要求」が「必要または当然の権利として(何かを)求める」のに対し、「要望」は「(何かの実現を)願う・望む」行為です。
「負けるが勝ち」ではありませんが、相手に主導権を渡す・判断をゆだねる「要望」のほうが、上から目線の「要求」よりもいい結果に結びつく可能性が高いでしょう。
意見ではなく質問をする
こちらも先ほどの要望同様、基本的には「相手をたてる」ことを念頭に置いています。
残念ながら、他者からの意見を素直に受け入れることができる人はそう多くありません。一方、相手の知らないことを教える立場に立つことに優越感を味わう人はたくさんいます。それが教育関係者であればなおのこと。よくわからないふりをして助言を求めるような質問をし、相手が自分と同じ結論に至るよう誘導しましょう。
実はこれは教育関係者側が保護者に対して使うのにも有効なアプローチです。
米軍基地内の小学校で日本語・日本文化の教師をしていたとき、1年生のクラスにおしゃべりで他の子の邪魔をする児童がいました。そういった問題に対して、教師は校長から「どんな問題があり、どういった指導をしたのか記録し、そのメモをその日のうちに当該児童に自宅に持って帰らせるよう」指導されていました。
指示通りにすると、下校から1時間もしないうちにその子どもの母親から電話がありました。電話なので表情は見えませんが、明らかに憤慨しているような声色です。
わざわざお電話くださって本当にありがとうございます。
お子さんのことを一番よくわかっていらっしゃるのはご両親です。どういった指導をすれば、お子さんにとって一番いいか何かアドバイスを頂けないでしょうか?
電話を切るころには、(やはり顔は見えませんが)声に笑顔が混じっていました。
客観的な視点を持つ
学校側にコンタクトする前に、自分の考えに過保護・過干渉・自己中心的・思い込みや勘違いといったモンスターペアレント的要素がないか、正当な根拠があるかなど、客観的に分析してみることをお勧めします。
ただ、自分で自分を客観的に見るのはなかなか難しいと思います。できれば同じ学校に子どもを通わせている保護者以外の友人や知人に自分の考えを伝え、率直な意見を聞かせてもらうのはどうでしょうか。
他にも「モンスターペアレント+懸念(例:教師のえこひいき)」でネット検索すれば、その結果から自分がモンスターペアレントかどうか判断できるでしょう。
指揮系統を遵守する
学校側とコミュニケーションをとる際、最初に話すべき相手は、直接の関係者本人(当事者)です。例えば教師が当事者だった場合、一足飛びに校長や教育委員会に話を持っていくのは、問題をこじらせるだけで逆効果です。
軍事組織である米軍基地では、一般的な会社や組織に比べ、「指揮命令系統(Chain of Command)」の遵守が必須です。ただ、基地内にはICE(発音はアイスクリームと同じ[άɪs])と呼ばれるInteractive Customer Evaluation システムがあり、基地にかかわる人々が無記名で誰かに対する称賛あるいは不満の声を、基地内の市長的存在である司令官にダイレクトに送れるようになっています。保護者の中には自分がヘリコプターペアレントだとばれないように、このICEをうまく利用する人がいます。
なお、最近では訴訟対策もかねて、揉め事の予想される保護者との話し合いには第三者(学年主任や校長など)が同席するようになってきています。1人対複数では公平な話し合いにならないように思われるかもしれませんが、たいていは話し合いの内容を記録しています。運悪く話し合いが物別れに終わった場合には、帰る前に記録を見せてもらうとよいでしょう。
一方「そっちがその気なら、こっちだって」と対抗意識を燃やすのであれば、その時点であなたはもうモンスターペアレントになりつつあると自覚してください。
ただし、もともと一人ではなく複数の保護者と連れ立って話し合いに参加する予定だったのなら、あらかじめそのことを相手に伝えておきましょう。指揮系統を無視した場合と同じで「圧力をかけている」と思われたくはないはずです。
落ち着いた対応を心掛ける
にこやかに対応しろとまでは言いませんが、けんか腰ではうまくいく話も失敗に終わります。
特に複数を相手に話をするときは、緊張からかマシンガントークになる人が多いので、早口にならないように注意することも大切です。
最後に
子どもたちの健全な育成には家庭と学校の連携・協力が欠かせません。そして家庭と学校の連携・協力の成否は、保護者と教育関係者の人間関係に大きく影響されます。
相手が誰であれ、「反面教師のアプローチ」は、良好な人間関係を築くのに極めて効果的です。
学校側との話し合いに二の足を踏んでいる保護者のみなさん、平和的で円滑なコミュニケーションを目指して、ぜひ1度この方法をお試しください。
なお、法律全般サポートは、様々なトラブルに見舞われた人々に無料で法律相談のための窓口を紹介くれるサービスです。「いまさら言われても、すでに揉めてしまっている」「試したけれど失敗に終わった…」という方々は、プロに相談する時期に来ているのかもしれません。
子どもの教育に関しては、どこからどこまでを保護者が担い、何から何までを学校教育に頼るのか曖昧なところがあります。興味のある方は以下の記事もご一読ください。
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