以前「不登校=子育ての失敗」だと思っているうちは親も子どももつらいままかも」で紹介した事例のお母さんから「息子が学校にいくようになった」という連絡をもらいました。
今回の記事は、そのときの会話を中心に、ある不登校児の家族がどんなふうにお子さんに働きかけたのかをまとめたものです。
あくまでも個人的な考察ですが、この事例の息子さんが不登校を克服したのは
- 親子関係の構図の見直し:母親主体から父親主体のサポートへの移行
があったからだと思います。
母親の変化
実は1学期の終わりくらいから息子が学校に行くようになりました。
間に夏休みも入るし、2学期になったらまた不登校に逆戻りかもって思ったんですが、休みが明けても通い続けてて。
一昨日なんて社会のテストでひどい点を取ったのに、昨日も今日もまったく気にすることなく登校していったんですよ。
ひどいって、何点だったんですか?
5点です。
最初「お母さん、かなりヤバいけど、何点だったと思う?」ってきいてきたんで、「20点くらい?」って言ったら、「まだまだ」って。
「じゃあ、10点?」って言ったら、「5点」だって。
完璧じゃなくてもいいと思えるようになったんなら、もう息子は大丈夫だと思います。
事例の息子さんはかなり優秀です。
おそらく以前のお母さんなら「優秀なはずの息子さんが100点満点のテストで5点しか取れなかった」という事実に対して、必死に言い訳を探していたと思います。
なぜなら、これまでこのお母さんは、
- 頭がよく、何でも卒なくこなせる
- 問題を効果的に最短ルートで解決することに慣れている
- 周囲に合わせるのがうまい
- 周りにどう思われているかが気になる
- 「みんな」のひとりでいることが快適
- 積極的に他者の意見や考えを聞こうとする
- ただし、頑固な一面があり、会話の中に「だって」や「でも」が多い
- 息子さんの特性をよく理解している
- 息子さんを自慢に思っている分、期待が大きい
- モンスターペアレンツ扱いされたことがある
人だったからです。
息子さんが不登校になり、このお母さんはお子さんのために何とかしようと必死でした。
ただ、そこにはいつも焦りがあり、優秀なだけでなく、人一倍繊細で、2Eの可能性が高い息子さんには、それがプレッシャーになっていたのかもしれません。
けれど今のお母さんに焦りはありません。
完璧じゃなくてもいいと思えるようになったのは、お母さんも同じじゃないですか?
きっとお母さんが変わられたおかげで、息子さんも変わることができたんじゃないでしょうか。
父親の変化
そうかもしれませんね。
きっかけはダンナの一言です。
「自分にはあの子の気持ちがよくわかる。しばらくあの子には何も言うな。時間をやれ。どうしても必要なときは自分が話をする」って。
はじめは「ふざけるな!」って思いました。あの子とずっと一緒にいたのは私なのに、って。
でも、怒りがおさまったら、もしかして本当に私よりもダンナのほうが息子の気持ちがわかるのかもって思いあたったんです。
ダンナ自身、子どものころ、周りから「神童」って言われて、嫌な思いをしてたらしいので。
今じゃ「神童?」って感じですけど。
ダンナさんは息子さんだけじゃなくて、お母さんにも小休止をあげようと思ったんですよ。
いやぁ、「自分がもっと動けば、私にぎゃんぎゃん言われずに済む」と思ったんじゃないですか?
令和3年10月に文部科学省が発表した「不登校児童生徒の実態把握に関する調査報告書」によると、調査票の回答者は圧倒的に母親が多く、父親は1割をも満たしません。
断定することはできませんが、日ごろ不登校のお子さんに働きかけ、学校を始めとする支援機関との連携をメインで行っているのは「お母さん」というお宅が多いのではないでしょうか。
だとすれば、事例のご家族のように、1度親子関係の構図を、母親主体から父親(または別の誰か)主体へと変えてみるのも、不登校関連の悪循環を断ち切るのに有効だと思われます。
ただ、長期的で多面的な視点を持たない人はこの役割に向いていません。
不登校期間の平均は約3年と言われています。当然、それよりももっと短い期間で不登校を克服した子もいれば、より長い期間、不登校だったという子もいます。
また、不登校の克服は復学とは限りません。幸せの形は人それぞれ違うからです。
事例のお父さんは、お母さんの話を聞く限り、
- おっとりした性格
- 困るのは自分だけという状況だと、しょっちゅう忘れ物や遅刻をしているが、動じない
- 我慢強い
- 物事にじっくり取り組む
- 1つのことに集中すると、他のことが気にならない
- 他人との競争に興味がない
そして、息子さんと好みの対象がよく似ているそうです。
最初は「○○(息子の名前)、一緒にマインクラフトやらない?」って誘ってました。
その頃の息子は自分の部屋に閉じこもることが多くなってたんで、まずはそこからリビングに連れ出そうとしたんでしょうね。
それは割と簡単にできたんですけど、家族みんなで映画に行こうとしたときは、前の日に自分も一緒に予約したのに、いざ出かけようってなったら、ベッドでドアをふさいで完全拒否。
どう対処されたんですか?
お出かけはキャンセル。
ダンナだけ「ベッドでバリケードするなら、鍵をつけよう」って、買い物に行きました。
なくて帰ってきましたけど。
しばらくはそんな感じで外に出られない日が続いてたんですが、たまたま大学生のいとこが2~3日遊びに来ることになって、めったに会えないし、せっかくだから一緒に名所観光でもしようって話になったら、なんと息子も一緒に出かけたんです。
どうも外に出られなかったのは、近所の人とか友達とか知ってる人に自分のこと見られたくなかったみたいで。
年末年始にはみんなでおじいちゃんおばあちゃんのところに泊まって、朝早くから餅つきの手伝いもしましたし、こっちに帰ってからもダンナと二人で日帰りのサイクリング旅行に行くようになったんです。
中3になるころには前よりも自意識過剰じゃなくなったみたいで、家の外で手伝いをしたり、夕方こっそりですが、わからないことを聞きに学校にもいけるようになりました。
そうしてやっと学校に戻ったわけですが、今はダンナに「高校受験しようかな」なんて相談してるみたいです。
中高一貫校から別の高校を受験するのはかなり厳しいみたいですけどね。
息子さん、本当に成長されましたね。
最後に
不登校の原因や家庭の事情・環境は子どもごとに違います。
不登校を克服するまでの道のりも何をもって克服したとみなすかもそれぞれに異なります。
ただ、間違いなく言えるのは不登校の克服には時間がかかります。
事例の保護者さんがたどり着いたアプローチ「母親主体から父親主体のサポートへの移行」がすべてのケースに当てはまるわけではありませんが、ちょっとでも不登校の悩みを抱えているみなさんのお役に立てたのなら幸いです。