2025年の10月から始まるNHKの連続テレビ小説(通称:朝ドラ)113作目が、島根(松江)にゆかりのあるラフカディオ・ハーン夫妻をモデルにした『ばけばけ』に決まりました。
『だんだん』といい、『ゲゲゲの女房』といい、2000年以降、島根が朝ドラの舞台に選ばれる確率が高い気がするんだけど…。
今回は、朝ドラの歴史を振り返って、舞台地選びに関する疑問に答えます。
- 朝ドラの舞台地はどうやって決めてるの?
- 過去65年(113作品)の間に、どの都道府県が何回朝ドラの舞台地に選ばれてるの?
- 朝ドラの舞台地に選ばれるメリットは?
舞台地選びの要因
朝ドラの舞台地は、どんなお話(ストーリー)になるかで決まります。
ただし、そのストーリーは制作者がNHKであるが故の規則や制限に縛られています。
NHKの社会的役割
NHK(日本放送協会)は、1950年に放送法に基づいて設立された公共放送を担う特殊法人です。
そのため、番組の編集・放送にあたって、全放送事業者を対象とした
- 公安および善良な風俗を害しないこと
- 政治的に公平であること
- 報道は事実を曲げないですること
- 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から、論点を明らかにすること
という4つの通則に加え、
- 豊かで、かつ、良い放送番組の放送を行うことによつて公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように、最大の努力を払うこと
- 全国向けの放送番組のほか、地方向けの放送番組を有するようにすること
- 我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること
が求められます。さらに、
- 他人の営業に関する広告の放送は禁止
- 財源は視聴者からの受信料(独立採算制)
といった規則(制限)も守る必要があります。
朝ドラは、文化水準の向上、及び既存文化の保存や新しい文化の育成・普及を目指して、すべての国民・地方公共団体にとって公平に有益であることが望ましい。
ストーリーの特徴
1961年に始まった朝ドラは、現在(2025年1月)111作目を放送中です。
全111作品のリストはこちら。
人物設定
過去64年の間に制作された朝ドラストーリーの大半は、主人公(複数の場合あり・9割以上が女性)とその家族の半生または一生を描いたフィクションです。
ただし、①小説などの原作をもとにした完全にフィクションと言える作品は6割ほどで、残り3割強は②実在する(した)人物・団体をモデルにしています。
- 1961~1974年:1年(4月~翌年3月)に1作品
- 1975年~2024年:1年を前期(4月~9月)・後期(10月~3月)に分け、半年に1作品
- 例外(1年作品)
- 第31作「おしん」(1983年度)
- 第46作「君の名は」(1991年度)
- 第52作「春よ、来い」(1994年後期 – 1995年度前期)
- 例外(1年作品)
最近は②実在する(した)人物・団体をモデルにした作品が多くなっており、2025年に予定されている2作品にもモデルが存在します。
- 『あんぱん』:『アンパンマン』の作者である漫画家やなせたかし・小松暢夫妻
- 『ばけばけ』:日本の伝説をもとにした『怪談・奇談』の作者である小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)・小泉セツ夫妻
テーマ
朝ドラが始まった1960年代と言えば、国内が高度成長期の真っただ中にあり、女性の社会進出が顕著な頃です。
そのため、当初は
- 地方出身の若い女性が都会で成長・成功していく姿を描いたひと昔前の上京物語・サクセスストーリー
- 戦中・戦後を苦労して生き抜いた女性を描いた処世ストーリー・ホームドラマ
がかなりの数を占めていました。けれど、現在に近づくにつれ、
- 女性があまり進出していない職業で活躍する現代のサクセスストーリー
へと職種や時代が変わり、最近では
- 身近で等身大の女性のライフストーリー
が増えてきました。
ちなみに、男性が主人公の朝ドラは現在(2025年)までに8作作られていますが、そのうち5作が芸能や演芸をテーマにしています。
時代設定
ストーリーの時代設定は、はるか江戸後期を始めとするものもあれば、平成後期に始まるものもあります。
また、『純と愛(2012)』『さくら(2002)』『走らんか!(1995)』『ぴあの(1994)』のように平成や昭和のある1年だけを描いた作品がある一方で、『カムカムエヴリバディ(2021)』のように大正後期から令和までの100年を、3世代のヒロインで描いた作品もあります。
意外なところでは、過去や現在のみならず、『ちむどんどん(2022)』や『舞い上がれ!(2022)』のように、未来まで描いた作品もあります。
朝ドラのストーリーには、人物・テーマ・時代設定それぞれにある程度の特徴は見られるが、舞台地を制限するようなものではない。
2つの制作局
朝ドラは、1974年までは主としてNHK放送センターが、それ以降は基本的にNHK大阪放送局と交互に制作しています。
2024年度までの作品数 | |
NHK放送センター | 63 |
NHK大阪放送局 | 48 |
この2つのうち、どちらが朝ドラを制作するかで、舞台地がかなり絞られます。
メインの舞台地 | |
NHK放送センター | 東日本と北日本(中部・関東・東北・北海道地方) |
NHK大阪放送局 | 西日本(近畿・中国・四国・九州・沖縄地方) |
ただ、この分割はあくまでも基本であり、例外も存在します。
また、1作品につき1つの舞台地という作品は、全体の16%(18/111)ほどしかありません。
朝ドラの舞台地は、制作局によって絞られるが、1カ所にとどまらない人物を主人公にしたストーリーにすることで、舞台地の数を増やすことができる。
これまでの舞台地
都道府県別データ
回数 | 都道府県 |
1 | 栃木・群馬・埼玉 ・千葉・富山・福井 |
2 | 岩手・秋田・山形・茨城・山梨・岐阜・岡山・島根 ・香川・愛媛・高知・徳島・大分・宮崎・佐賀・長崎 |
3 | 青森・福島・長野・愛知・新潟・石川・奈良・三重・和歌山・鳥取・鹿児島・熊本・沖縄 |
4 | 宮城・滋賀・山口 |
5 | 静岡・広島 |
6 | 福岡 |
7 | 神奈川 |
8 | 兵庫 |
9 | 北海道 |
17 | 京都 |
35 | 大阪 |
61 | 東京 |
*2025年度前期・後期に予定されている作品の舞台地
- 『あんぱん』:高知・東京
- 『ばけばけ』:島根・熊本・東京
舞台地の偏り
舞台地の選出には、明らかに大きな偏りがあります。
人気スポット
東京や大阪が何度も舞台地になるのは、当然と言えば当然です。
朝ドラのストーリーは昭和に時代を設定したものが半数以上(57/111)を占め、昭和の物語には上京物語が多数含まれているからです。
過去20年の間(2025年も含む)に2度以上も舞台地に選ばれている岩手・島根・沖縄・高知の4県は、21世紀の朝ドラ人気スポットと言えるでしょう。
不人気スポット
もしも舞台地が完全に平等に選ばれていれば、どの都道府県も2回は舞台地になっていたはずです。
ところが、栃木・群馬・埼玉 ・千葉・富山・福井の6県はまだ1度しか舞台地に選ばれていません。しかも富山は35年、千葉にいたっては40年も朝ドラ界から見放されています。
- 富山:『凛凛と』(1990)
- 千葉:『澪つくし』(1985)
また、秋田と山形に関しては過去に2度選ばれているものの、両県とも選ばれたのは半世紀近くも前のことです。
- 秋田:『雲のじゅうたん』(1976)、『まんさくの花』(1981)
- 山形:『いちばん星』(1977)、『おしん』(1983)
朝ドラ効果:舞台地に選ばれるメリット
自治体(特に地方)にとって朝ドラの舞台地に選ばれるメリットは、何といっても経済効果です。
- ロケ隊が来ることで消費活動が増える
- ロケ地に限らず、従来の観光地への訪問客が増加し、観光業界が潤う
- アンテナショップなどの商品・製品に注目が集まり、売り上げがアップする
もう1つのメリットは、地域文化の振興です。
- 担い手を失いつつあった昔ながらの風習や行事、伝統の復活や再生が見込める
撮影のエキストラにボランティアで参加している間に、地域の団結力が高まったり、地元愛に目覚める可能性もあります。
ただ、経済効果に関して言えば、何もしなければ1年ほどで薄れていくでしょう。
そこで、朝ドラの舞台地になったことをきっかけに、地元の魅力を全国に向けて発信し、地域の活性化を図ろうと連携して立ち上がった自治体があります。
- 「朝ドラ舞台地ネットワーク連絡会議」:大阪府岸和田市、鳥取県境港市、東京都調布市、島根県松江市・安来市
- 「おかえりプロジェクト」:岩手県久慈市、宮城県気仙沼市・登米市、福島県福島市
なお、朝ドラの舞台地に選ばれないことには朝ドラ効果の恩恵にあずかれないため、中には積極的に朝ドラ誘致に働きかけている自治体があります。
最後に
今回は、2025年後期の朝ドラが島根を舞台地にした『ばけばけ』に決まったことでふと沸いた疑問と、そういった疑問に対する回答をまとめてみました。
みなさんの地元は朝ドラの人気スポットでしたか。それともいま一つ縁がないとか…。
TBSの『VIVANT』といい、ここ数年、島根の魅力が日本中に伝わっているのはうれしい限りです。
もしまだいらしたことがなければ、『ばけばけ』が始まって観光客が増えすぎる前に、ぜひ島根にお立ち寄りください。もしかするとドラマの撮影に行き当たるかもしれませんし、自分が行ったり見たりした場所が放送されるかもしれませんよ。
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朝ドラの過去の作品は、
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