モンスター患者家族という言葉をご存じですか。
今回は、母の入院という実例をもとに、患者の回復という同じ目標を持っていても、優先順位の違いから起こりがちな医師と患者家族の間の見解の相違についてお話します。
- モンスター患者家族とは?
- 高齢者の入院で起こりうること
- QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは?
- 患者家族と医師とのコミュニケーションの大切さと難しさ
果たして私は本当にモンスター患者家族と見なされるほどひどい対応をしたのでしょうか。
モンスター患者家族

モンスター患者家族とは、医療機関や介護施設等で医者や看護師、介護スタッフなどに対して理不尽な要求を繰り返したり、迷惑行為を行う患者家族のことです。
モンスターペアレンツと合わせてモンスターファミリーと呼ばれることもあります。
近年こういったモンスター患者家族が増えている背景には
- 「お客様は神様」という意識の高まり
- 病院や医者の権威の失墜と不信感の増加
- 誰でも簡単にあらゆる情報が検索可能なデジタル社会の出現
があります。
ただ、ここで注意したいのが、モンスター患者家族と見なされている人たちの中には、そうではない家族も含まれている可能性があることです。
実際、モンスター患者家族かどうかは、医療関係者やケアスタッフが患者家族の言動が原因で心身にストレスを感じたり、業務に支障が出たかどうかで決まります。
つまり、患者の治療や世話をする側が「そうだ」と主張するだけで、誰でもモンスター患者家族と見なされうるのです。
母の入院

入院までの経緯
転倒
ある日の午後4時半過ぎ、うちから歩いて1分ほどの公道で倒れていた母を近所の人が発見し、自宅にいた私と119番に連絡してくださいました。
駆けつけると母は意識もあり、話もできる状態でしたが、なぜ倒れたのか、倒れる前に何をしていたのかは思い出せませんでした。
近くにわずかですが吐しゃ物があり、後頭部にコブがあったことから、どうも後ろ向きに倒れて頭を打ち、その後動こうとして吐いたようです。
騒ぎを聞きつけてやってきたお隣さんによると、ほんの数分前に話をして別れたばかりなので、倒れてから発見されるまで5分もたっていないはずだということでした。
救急搬送
ほどなく救急車が到着したので、
- 発見までのいきさつ
- 現在投薬を受けている疾病(糖尿病・心臓病、高血圧等)
- 3年前にも後頭部を打って外傷性くも膜下出血および脳挫傷で約1週間入院治療をしたこと
を伝えました。
救急隊員による
- 簡単な質問:今日の日付がわからない
- 血圧測定:200越え
- 血糖値の測定:?
などの検査の後、母は3年前にもお世話になった糖尿病のかかりつけ医がいる病院に救急車で搬送されました。
担当医との面談:診断と治療計画
遅れて病院に着くと、救急救命室で脳外科の医師(のちの担当医)から、
- (CT検査の結果を見ながら)前回とほぼ同じ場所にひびが入り、より多くの出血が見つかった
- 出血を止めるための薬と癲癇を予防する薬、血圧を下げる薬の点滴を投与している
- 血中酸素濃度が低く、酸素吸入のために鼻カニューレを着用している
- 2時間後に再度CTを撮り、出血が止まっているようなら、前回同様1週間ほどの入院になるだろう
という説明がありました。
質問がないかと聞かれたので、
- 他の病院で処方され、普段服用している薬をどうすればいいか
尋ねたところ、「薬を調べて問題がなければ入院中も続けて服用してよい」ということでした。
入院経過
以下は母からの話と、面会の際に私自身が見聞きした様子、医療関係者とのやり取りをまとめたものです。
- 初日(夜)HCU(高度治療室)に入室
絶対安静
「2回目のCT検査の結果、出血は止まり、血圧も下がっている」と担当医(手術に入ったため)から伝言
転倒した記憶はないが、それ以外の認知機能に問題なし
点滴・酸素吸入と静脈血栓塞栓症防止用の着圧ソックスを使用 - 2日目重症患者用の個室に移動
酸素吸入と院内処方のインスリンを追加した点滴を継続
他院処方のその他の薬は昼食時から服用
食前血糖値が400越え
絶対安静の解除。ベッドに起き上ったり、看護師の補助付きでポータブルトイレの使用が可能に
リハビリで脳トレ開始
吐き気がして食欲(糖尿食)はほとんどなし。夜中2度嘔吐 - 3日目追加の検査(レントゲン・心機能・腎臓等)
「血中酸素濃度が上がらず、発熱(38度)。検査で誤嚥性肺炎が判明(おそらく転倒時の嘔吐が原因)。点滴に抗生物質を追加した。1週間での退院は確実に無理」と担当医から電話連絡
口にできたのは病院食で出た牛乳・味噌汁の汁・みかんと麦茶のみ
背中の痛みで睡眠不足 - 4日目まずい病院食
体温が微熱(37度)程度に低下
吐き気はおさまるが、食事が口に合わず、出されたものをつつく程度
「みかんやフルーツジュースなら飲めるので、飲ませてもいいか」医師への確認を看護師に依頼
点滴のインスリンの量が調整されたものの、食前血糖値は高いまま
酸素吸入をした状態で血中酸素濃度が正常値にまで改善される
看護師の補助なしにポータブルトイレの使用可 - ~7日目睡眠不足と体重の増加
2~3時間しか眠れないため、安定剤を処方してもらうも効き目なし
酸素吸入の解除
食事は3分の1程度を食べるのみ、かつ1日に多いときは3度も大があるのに、体重が増加
みかんやジュースの飲用についての質問には回答なし
1日2回の脳トレと歩行のリハビリ - 8日目血液検査
嘔吐が復活し、だるさや疲れの症状が出る
担当医から「低ナトリウム血症を発症したので、ナトリウムの補充を開始した。間食は一切禁止」と電話連絡 - ~10日目大量の食塩
生理食塩水を含む点滴に加え、食事に食塩(2x4cmサイズのパック2袋分)を追加するよう指示が出る
方法1:おかゆにかける→塩辛すぎてわずかしか食べられず、その後嘔吐
方法2:ごく少量の水に溶かす→すべて飲まされ、その後嘔吐
脳トレのリハビリのみ継続
頻尿になり、睡眠不足存続 - 11日目担当医代理(担当医は不在)+看護師1名と面談
患者に代わって、食塩の食事への投与の仕方に関する懸念と要望を質問の形で伝える→今後は本人が望まない限り、食塩は強要せず、梅干しや漬物を病院食のほかに個人で用意→病院食を半分くらい食べられるようになる
点滴(生理食塩水)の継続
リハビリ(歩行や日常生活関連の動作+脳トレ)の再開
頻尿のせいで睡眠不足存続 - ~13日低血糖と体重増加
それまでの高血糖から打って変わって朝食前の血糖値が毎回60~70程度になり、ブドウ糖を飲まされる
吐き気はなく、毎食漬物か梅干を添えて7~8割程度(ただしおかゆは半分のみ)食べられるようになる
点滴(生理食塩水)の継続
頻尿にもかかわらず、足の甲がむくんでくる
睡眠不足の存続
3日間便秘していることもあり、さらに体重増加 - 14日目血液検査
午前中に血液検査
漬物または梅干し+病院食8割程度を持続
朝の低血糖も存続。
本人がブドウ糖ではなく、プリンやゼリーなど冷たくて食べやすいものを希望するが、現時点では担当医から病院食と漬物・梅干以外一切禁止の指示が出ているため、看護師が却下
「ブドウ糖を飲ませる代わりに食品で糖分をコントロールする形に変更できないか」担当医への伝言を依頼
点滴(生理食塩水)・リハビリの継続
足のむくみがさらにひどくなる
頻尿・睡眠不足の存続
腰の痛みを発症
久々にお通じあり - 15日目入院後初の入浴
3日1度清拭と下着の交換だけだったのが、看護師の補助で初入浴
食事の量は8割程度から変化なし
4~5時間の眠れたせいか、少し生気が戻ったように見える
点滴に塩化ナトリウム注10%追加
足のむくみがわずかに改善
リハビリの継続(低ナトリウム血症のせいか、集中力や記憶力が低下しているように思える)
立ち上がると多少ふらつきあり
検査結果や質問に対する回答なし
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)
世界保健機関(WHO)の定義を参考にすれば、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは、自分が身体的・精神的、社会的・文化的、経済的・環境的にどのような状態にあるか(どれだけ満足しているか)を主観的に評価するための物差しのようなものです。
日本語ではたいてい「生命の質」「人生の質」「生活の質」などと訳されます。
以前は終末ケアの場面で、人生の最終段階に差し掛かった末期患者や高齢者が、残された時間をその人らしく尊厳をもって快適に過ごすための指針としてよく耳にする言葉でした。
けれど、近年では終末期であるかどうかにかかわらず、さらに言えば病気でなくても、QOLの高い生活(人生)を送ることがあらゆる人にとって大切だと考えられています。
母のQOL
現在、母は83歳です。
4つのサークル活動に参加し、2つの老人会の役員をし、さらに2つのボランティア団体に加わっています。
(私の手も借りて)畑で大量の野菜や果物を育て、食べきれないからと近所の人たちやババ友にせっせと配っています。
健康面に関して言えば、自立していて、現在も車を運転をしています。ただ、突発性難聴で右耳は聞こえず、長年患っている糖尿病と高脂血症に加え、昨年からは心臓病と高血圧の薬も服用するようになりました。
一番の楽しみは、週に2回はあるババ友とのお茶の時間(だいたい3時間)と月に1度あるかないかの食事会。
「食べたいものも食べられないんじゃ、長生きしたってつまらない」を信条に、一応食べ過ぎないようにはしていますが、甘いものだろうとなんだろうと、食事制限(糖質コントロール)は全くしていません。
肺炎がよくなって以降、面会のたびに母は「食事がまずい」「プリンが食べたい」「一日が長い」「ずっと(点滴に)つながれっぱなし。早く自由になりたい」とこぼし、「もう入院して〇日目」と嘆いています。
要するに、入院中の母のQOLは著しく低いと言わざるを得ません。
年寄りのわがままと言われるかもしれませんが、ここはひとつお医者さんに掛け合ってみようと思いました。
医師とのコミュニケーション
入院初日から2週間目までのところで、患者家族である私と担当医(代理含む)の間には4回の直接的なコミュニケーションと3回の間接的なコミュニケーションがありました。
- 面談2回:担当医1回・担当医代理1回
- 電話での会話2回
- 看護師を通して担当医からの伝言1回
- 看護師を通して担当医への伝言(質問)2回:返答なし
このうち、明らかに医師から煙たがられていると感じたのは担当医代理と面談したときです。
おかゆに入れられた食塩の量を見たのと、その後嘔吐した事実から、
質問しました。さらに、
ことを伝えました。
これに対し、医師からは、
と、「医者でもないくせに」と言わんばかりの返答がありました。
もし、ここで私が引き下がっていれば、モンスター患者家族なり、小うるさい厄介者と見なされることはなかったでしょう。
けれど、引くどころか続けて私は、
と、相手を意見を受け止めつつも、
と、食い下がりました。
すると、「コイツと話しても仕方ない」「高齢の患者なら、簡単に丸め込めるだろう」と思われたのか、患者本人に話を聞くことになりました。
そして、母の口から、
と聞かされた医師は、最終的に「食塩を梅干しと漬物に置き換えてもOK。」と、こちらの言い分を了承してくれました。
おかげで、それ以降は強制的に塩を食べさせられることがなくなり、相変わらず食事に文句をつけつつも、母は吐くこともなく、食事の量も増え、少しずつ体力も気力も取り戻していきました。
たとえ私個人が悪く思われようとも、医師に対して想いを伝えることにしたのは正解だったと思っています。
なお、看護師さん経由でした最後の質問に対する答えはもらえていませんが、とりあえず母のQOLが上がったので、しばらくはこのまま様子を見ようと思います。
最後に
母の入院は今日で17日目になりますが、いまだ退院のめどはついていません。
と、ここまで書いたところで、担当医から電話がかかってきました。
要件は、
どうやら担当医にはモンスター患者家族だと思われていなさそうだったので、
きいたところ、
と、「医学の素人だから」と鼻であしらうのではなく、お礼まで言われてしまいました。
今回の記事では、
- モンスター患者家族とは?
- 高齢者の入院で起こりうること
- QOL(クオリティ・オブ・ライフ)とは?
- 患者家族と医師とのコミュニケーションの大切さと難しさ
について、実体験に基づいたお話をしましたが、今日の電話で医師と患者家族のコミュニケーションがうまくいくかどうかは家族側だけでなく、医師の人間性にもよるようだと実感しました。



