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【中学校の部活動指導】外部委託の落とし穴?そもそも部活動の目的は?

部活動の外部指導

平成31年、中央改革教育審議会が、「学校の働き方改革」を推進するための総合的な方策を示した答申を取りまとめました。

文部科学省はこれを踏まえて、①教師が授業などの本来の業務に専念できる環境を作り、②未来を担う子供たちの学びを充実させるための改革を強力に推進するため、各自治体に取り組みの徹底を通知しました。

ここ最近話題になっている中学校の部活動指導の外部委託は、この通知に対する各自治体の方策の1つです。

実際のところ、部活動指導の外部委託は、残業時間の減少、業務の縮小など、教師にとってありがたい改革のようです。

けれど部活動の主役である生徒たちにとってはどうでしょう。本当に手放しで喜べる改革なのでしょうか。

今回の記事では、部活動の指導が外部に委託されるという流れの中で、どうすれば子どもたちにより良い部活動体験を提供できるのか、そのために地域・学校・家庭(保護者)は何をすべきか、考えてみたいと思います。

参考資料:

「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)
「新しい時代の教育のために「学校の働き方改革」が進められています!」
「学校における働き方改革に関する取組の徹底について」(通知)(平成31年3月18日)

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部活動の目的

文化部部活動

規定

現行の「中学校学習指導要領」では、まず部活動を

  • 学校教育の一環
  • 教育課程外で行われる
  • 生徒の自主的,自発的な参加により行われる

活動としています。

その意義(目的)については、

  1.  スポーツや文化及び科学等に親しませる
  2. 学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養(無理なく育てる)
  3. 互いに協力し合って友情を深めるといった好ましい人間関係の形成

とあり、「教育課程において学習したことなども踏まえ,自らの適性や興味・関心等をより深く追求していく機会」なので、「教育課程との関連が図られるよう留意すること」としています。

実態

平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書」によると、平成28年度の時点で、全国の9割以上の中学生が、1つまたは複数の部活動(運動系約8割、文科系約2割)に所属しているそうです。

その調査の中で、生徒たちが選んだ「部活動に所属した最大の目的」Top4は以下の通りです。(選択式の回答・単一回答)

目的%(回答数)
大会・コンクール等で良い成績を収める30.2(8,664)
体力・技術を向上させる26.3(7,528)
チームワーク・協調性・共感を味わう18.4(5,262)
友達と楽しく活動する10.5(3,011)
中学校運動部所属(総有効回答数:27,877)
目的%(回答数)
友達と楽しく活動する26.4(2,116)
大会・コンクール等で良い成績を収める21.9(1,751)
チームワーク・協調性・共感を味わう15.0(1,198)
体力・技術を向上させる13.0(1,044)
中学校文化部所属(総有効回答数:7,772)

また、「部活動を行っていて良いと思う点」Top5は次のようになります。(選択式の回答・複数回答)

目的%(回答数)
体力・技術が向上している52.9(15,154)
友達と楽しく活動できている43.1(12,358)
チームワーク・協調性・共感を味わえている41.8(11,981)
仲間が増えた37.0(10,605)
大会・コンクール等で良い成績を収められた22.3(6,384)
中学校運動部所属(総有効回答数:28,361)
目的%(回答数)
友達と楽しく活動できている51.7(4,142)
仲間が増えた38.7(3,095)
チームワーク・協調性・共感を味わえている31.6(2,534)
体力・技術が向上している28.3(2,267)
大会・コンクール等で良い成績を収められた15.1(1,211)
中学校文化部所属(総有効回答数:7,864)

上表からもわかるように、中学生が部活動に参加する最大の目的や、参加した結果得られたものは、

  • 参加している部活動で必要な資質の取得とスキルの上達
    • 大会・コンクール等での上位入賞
    • 体力・技術の向上
  • 対人スキルの育成・取得と良好な対人関係の構築

の2つが圧倒的上位を占めています。

けれど、部活動のもう1つの目的である「学習意欲の向上」については、何の言及もありません。

実際、「部活動に所属している目的」と「部活動を行って良いと思う点」についての質問に対して、「教科や学習(教育課程との関連性)」は回答の選択肢に入っていませんでした。

「教科や学習」が目的や良い点だと思った生徒は、おそらく「その他」を選ぶか「無回答」を選んだものと思われます。(「その他の目的・良い点」を選んだ生徒は、全体の約4-8%ほど、「無回答・無効回答数」は1-2%弱でした。)

なお、約6-11%の生徒は、部活動に参加しているものの「特に目的や良い点がない」を選んでいました。

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部活動指導者の外部委託

部活動指導者

部活動指導に関するガイドライン

部活動の指導に関するガイドラインには、

があり、指導者の外部委託については、以下のような記述があります。

運動部活動での指導の
ガイドライン
・外部指導者の協力確保・連携
・外部指導者等の協力を得る場合の校内体制の整備
 ‐学校、顧問の教員と外部指導者等との間で十分な調整を行い、外部
指導者等の理解を得るとともに、相互に情報を共有する
 ‐指導を外部指導者に任せきりとならないようにする
学校内外での指導力向上のための研修、研究支援
文化部活動の在り方に関する
総合的なガイドライン
・指導・運営に係る体制の構築
 ‐ 各分野の関係団体:部活動指導員の任用・配置、指導者等
に対する研修等、指導者の質の向上に関する取組に協力する

 ‐ 都道府県及び学校の設置者:指導者(顧問、部活動指導員や
外部指導者等)と学校の管理職を対象とする研修等の取組を行う

・指導者の部活動用指導手引の活用
・地域との連携
著者まとめ

ガイドラインに足りないもの

2つのガイドラインを精査すると、活動時間や休日の設定、身体的・精神的体罰の禁止など、これまで問題視されてきた指導の在り方を改善しようという姿勢が、いたるところにうかがえます。

けれど、どちらのガイドラインも、教師が指導者だったときに起こったこれまでの問題は考慮に入れていても、指導者が教師でないがゆえに起こるかもしれない問題に関しては考慮していないように思われます。

さらに指導者の条件についても、その分野の専門的な知識やスキル・経験について少しばかり言及しているだけで、あとは地域の事情に合わせてと、言葉を濁しています。

先ほどの調査結果から、部活動に所属している中学生が、大会での上位入賞や体力・技術面の向上を目的にしていることは明らかです。

けれどその一方で、学習指導要領では部活動の目的をあくまでも「スポーツや文化及び科学等に親しませること」だとしています。

そう考えると指導者には、ある特定の分野の専門性よりも「学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養(無理なく育てる)」や「互いに協力し合って友情を深めるといった好ましい人間関係の形成」をサポートする資質が必要なのではないでしょうか。

参考資料:

平成29年度 運動部活動等に関する実態調査報告書
【総則編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説
運動部活動での指導のガイドライン
文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン

外部指導者に対する懸念

いじめ

事例

ある小学6年生男児のお母さんが、こんな話をしてくれました。

「うちの子が入ってる地域のスポーツクラブのコーチが、来年うちの子が行くことになる中学でも部活指導をすることになったんだけど、できればほかの人がよかったわ。」

既に自分の子どもがよく知っている人が部活の指導者になると聞けば、親は喜ぶだろうと思っていたので、このお母さんの反応にはかなり驚かされました。

けれどそのスポーツクラブの様子や指導の在り方、お子さん自身のことやクラブ内での人間関係についてさらに詳しく聞いた後は、そのお母さんの反応にも納得がいきました。

スポーツオリンピック種目にもなっている個人競技
ペアや団体戦あり
スポーツクラブ会費:無料
メンバー:4・5歳以上
競技に必要な道具類は個人で購入
保護者のボランティア(片付け・付き添い・大会への送迎など)必須
自由参加の練習は週2日、強化練習は週5日(平日:6時ー9時、休日:1日中)
コーチ男性・40代後半
指導した子どもたちは毎年県大会で上位入賞
クラブでの指導が本職なのかボランティアや副職なのかは不明
小6男児おちゃらけキャラ・成績はふつう
通っている小学校の児童会長
スポーツクラブに入会して2年程度
コーチに誘われて強化練習に参加中
クラブ内の人間関係子どもグループの中に小6男児を毛嫌いしている中1女児(県大会の上位入賞者)
がいて、「小6男児とは一緒に練習したくない」とコーチに直訴。2人が一緒に
ならないように、コーチはペア練習の組み合わせを変更。
中1女児はほかのメンバーにも小6男児と練習しないように忠言。大会では小6
男児の対戦相手を応援するようほかのメンバーに指示。状況を知りながらも、
コーチは何の対応も対策もしていない。
ちなみに小6男児はなぜ自分が嫌われるのか全く心当たりがない。

懸念

初めに断っておくと、このお母さんには過干渉の傾向があります。

また、コーチや中1女児・一緒に練習しているほかの子どもたちには話を聞いていないので、このお母さんの言うことが必ずしも正しいとは限りません。

けれど、この事例が部活動の指導者に地元のクラブや団体の専門家を選ぶことで起こるかもしれない問題を示唆していることには変わりありません。

  • 外部指導者は、「部活動で初めてその分野の知識やスキルを習得する初心者」と、「中学に入る以前からクラブ等を通じてその分野の知識やスキルを身につけている生徒たち」を平等に指導できるのか
  • 専門分野の知識やスキルを教えることに重点が置かれ、対人スキルや社会的スキルに関しての指導がおろそかになるのではないか
  • いじめなどの問題が起こった場合、的確な対応・指導ができるのか
  • ガイドラインにある①学校と外部指導者の十分なコミュニケーション・協力・連携や②研修の実施が徹底されるだろうか

部活動の指導者に関する提案

選択肢

以上のことから、学校側には部活動の指導や指導者の選定に関して、次の4点を考慮してほしいと思います。

  • 教師の中に部活動の指導をやってもいい・やりたい人がいないかどうか確認し、いた場合はまずその人に指導者になってもらう
  • 教師を指導者として雇う
    • 私が勤務していた米軍基地内の学校では、中学校の部活動の指導はほぼ教師が行っていました。
      ただ、部活動の在り方が日本とは大きく異なり、①教師が学校長に部活動の申請をする、②認可した部活動の予算(教師への支払い)を、学校長が地区の上部機関(教育事務所)に申請する、③教育長が部活動の内容に応じて、予算額を決める、となっていました。
  • 部活動の時間を教師の勤務日・時間内のみとする
    • 外部指導者と顧問の教師の2人体制で指導に当たり、技術面は外部指導者、対人面は顧問というように得意分野に応じて役割分担をする。
    • 休日や教師の勤務時間外の日時にも活動したい生徒は、プライベートでその分野のクラブや団体等に所属する。
    • 自治体や学校は、ガイドライン・学習指導要領にあるように、地域のクラブや団体に(特に金銭面において)協力・連携を依頼する。
  • 指導者研修の計画を明確にする
    • 研修は定期的に開催し、指導者の参加を徹底させる。
    • 技術面や指導法に関する研修以上に、心理学や安全面に関する研修を組み込む。

最後に

上述の提案の中には「教育公務員特例法」が改正されない限り、実現が難しいものもあります。

けれどその他の提案については、いずれも教師の負担を軽減しつつ、外部指導者を任用した場合に起こりうる問題を避けるためにも一考の価値があると思います。

最初に述べたとおり、部活動指導者の外部委託は「学校の働き方改革」を推進するための方策であるため、どうしても「教師」の救済に重きが置かれています。

本当に子どもたちにとって意義のある部活動体験ができる体制を整えたいのであれば、ぜひ学校・家庭(保護者)・地域間で、中学校の部活動指導の外部委託について話し合う機会を設けてみてください。

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