最近日本の教育現場でも耳にする機会が増えてきた「協働学習」ですが、アメリカでは、特に学習者の授業への取り組み方に大きな改善が期待できると、もう40年近くも実践されてきました。そのアメリカの教育関係者に「お勧めの協働学習指導ツールは?」ときくと、ほぼ全員が「Kagan Cooperative Learning Strategies」(ケーガン流協働学習指導法)のどれかを挙げます。
「ケーガン流協働学習指導法」というのは、カリフォルニア大学バークレー校で心理学と教育の専任教授だったスペンサー・ケーガン博士が発展させた教育手法で、児童・生徒にとっては楽しく積極的に授業に参加できるアクティビティになります。また、そのアクティビティを通じて、子どもたちはリーダーシップ、コミュニケーション能力、協調性や社会性といった21世紀型スキルを身につけることができるという優れものです。
今回はその「ケーガン流協働学習指導法」の中から、私自身が授業や研修でつかったことのある5つの学習指導ツールをご紹介します。
Round Robin:ラウンド・ロビン
小グループ内において、メンバー全員が順番に自分の意見をほかのメンバーに伝える方法。
- 3-5人1組のグループを作る。
- 教師が回答の複数ある質問をクラス全体に投げかける。
- 児童・生徒はグループ内で順番に答えを言う。
(質問の例)
- 「何色が好きですか?」
- 「座右の銘は何ですか?」
Think-(Write)-Pair-Share:考えて(書いて)ペアになってシェアして
自分の考えを、そう考えるに至った理由も含めてペアになった相手に説明し、相手を説得するのと同時に、相手の意見にも耳を傾け、尊重する話し合いの方法。
- 教師がクラス全体に質問を投げかけ、児童・生徒に考える時間を十分に与える
- (児童・生徒はその質問の答えを紙に書き出す。)
- 児童・生徒はペアを作る。(ペアの簡単な作り方は次の”Stand-up, Hand-up, Pair-up”参照。)
- ペアの一人が自分の意見を相手に伝え、その後立場を交換して、聞き役だったほうが話し手になる。
- 別のペア、またはクラス全体に、自分たちのペアの話し合いについて説明する。
(質問の例)
- 「今日は何を学びましたか?」
Stand-up, Hand-up, Pair-up:立って手を挙げてペアになって
二人1組で行う活動において、同じパートナーとすべての活動を行うのではなく、次々とパートナーを変える方法。
- 教師の合図で、児童・生徒が立ち上がる。
- 手を挙げる。
- 手を挙げている人の中からペアになる相手を選ぶ。
- 相手と指定された活動を行う。
- ペアでの活動が終わったら、二人とも手を挙げ、同じように手を挙げている別のペアの誰かと新しいペアを作り、指定された活動を行う。
- 制限時間が来るまで同じ活動を違うパートナーと繰り返す。
(活動・質問の例)
- 「好きなスポーツが何か、できるだけたくさんの人にインタビューしなさい」
Four Corners:4つのコーナー
部屋の4つのコーナーに、同じ主張を持つ者同士がそれぞれ集まって、そのグループ内で意見交換をしたり、ほかの3グループに対して、自分たちのグループの主張をシェアする準備をする方法。
- 教師が複数回答のある質問をする。
- 教室内に教室内の4つのコーナーにそれぞれ1つずつの答えを割り当てる。(または答えを書いた紙・表示を貼る。)
- 児童・生徒は自分が「これだ!」と思うコーナーに移動する。
- 各コーナーに移動したグループの中で、なぜその答えを選んだか説明し合う。
- グループ内で代表者を1名選び、その場で自分たちのグループの意見をクラス全体に向かって発表する。
*回答が5つ以上ある場合は4つのコーナーのほかに、グループが集まれる場所を作る。
(質問の例)
- 「日本とアメリカの小学校で違うルールのうち、日本もアメリカのように変えたほうがいいと思うルールはどれですか?」ー答えの選択肢例:制服、髪型や髪の色、上履き、おやつの時間、そうじなど
- 「企業にあったらいいなと思う制度・設備・サービスは?」-答えの選択肢例:フレックスタイム制、託児所、シエスタ、カジュアルフライデーなど
Quiz-Quiz-Trade:クイズ・クイズ・トレード
その日・その時間内に学んだことを確認し、学びそびれたかもしれない項目を補う方法
- 教師が表に1つの質問、裏にその答えの書かれたカードを児童・生徒の人数分用意し、ひとりに1枚ずつ渡す。(同じ質問・答えのカードがあってもOK。)または児童・生徒がその日学んだことを1つだけ選び、カードの表にそれが答えになるような質問を作って書き、裏に学んだこと(答え)を書く。
- 児童・生徒はペアを作る。(先ほどのStand-up, Hand-up, Pair-upが使える。)
- まずペアのうちのどちらかが、自分のカードに書かれた質問をする。
- きかれたほうは質問に答える。答えられない場合や答えが間違っていた場合は、質問をしたパートナーに答えを教えてもらう。
- 質問する側とされる側を交代する。
- 両方の質問と回答が終わったら、持っているカードを交換(トレード)する。
- 新しいパートナーを見つけてペアを作る。
- 手順3-7を制限時間の間、繰り返す。毎回カードを交換するので、質問と答えもパートナーが変わるたびに異なるはず。
最後に
今回は「ケーガン流協働学習指導法」の中でも、簡単ですぐに使える5つのツールを紹介しました。どれも小学生から大人まで、どんな教科や研修にも利用可能なツールばかりです。
ケーガン流についてもっと知りたいという方は公式サイト(英語サイト)に様々な記事やワークショップの紹介があります。
「日本語で簡単にまとめたものはないの?」という方には『ケーガン協同学習入門』(著:スペンサー・ケーガン/大学図書出版)がお勧めです。
今後もケーガン流のツールを含め、21世紀型スキルを身につけるのに役立つ学習指導ツールほか、学習者の理解度の確認・評価、クラスマネージメントにも使える教育ツールを順次掲載予定です。また、ご紹介したツールは一覧(PDF)にして、サイト内のGALLERYからダウンロードできるようにする予定ですので、よろしければそちらもご利用ください。(すみません、2022年6月の時点ではまだ準備できていません。)
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