「マインドフルネス」という言葉をご存じですか。
GoogleやApple、Intelといった世界的に有名な大企業が、社員のメンタルケアや能力開発のために取り入れているというので、最近国内でも注目されるようになった意識の持ち方・考え方です。
ただ、説明を聞く分には簡単そうに思えるマインドフルネスも、いざ実践しようとすると「うまくいかない・続かない」と感じる人が少なくありません。
そこで、今回は継続しやすく、実践の成果が出やすい、自然の力を借りたマインドフルネスについて紹介します。
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、「あらゆる評価や判断を排除して五感に意識を集中させ、今この瞬間、自分が抱いている感情や身体的な状態、体験していることを知覚し、あるがままに受け入れること」だと、私は解釈しています。
マインドフルネスは「常に落ち着いた心の行動や状態」を表す仏教用語の「サンマ・サティ」を語源とし、「瞑想」をベースにしていることから、「マインドフルネス=瞑想」と勘違いされがちです。
しかし、瞑想が「何も考えない無の境地をつくり出す」行為であるのに対して、マインドフルネスは「感じることに意識を向ける」行為です。
実際、瞑想を行うには日常を離れ、意図的に時間を確保しなければなりませんが、マインドフルネスは、理論上いつでもどこでも実践が可能なはずです。
マインドフルネスの効果
マインドフルネスは、一般的に瞑想やヨガとの組み合わせで行われることが多いです。
瞑想やヨガのもたらすストレス軽減効果については、仏教信者の多い東洋では昔からよく知られていましたが、それをマインドフルネスという言葉とともに医療分野に応用・発展させていったのは、マサチューセッツ大学の医学部名誉教授のカバットジン博士です。
今ではアメリカに限らず、世界中でマインドフルネスの効果が科学的・医学的に研究され、実証されています。
身体面における効果
- 睡眠の改善
- 免疫力の改善
- 血圧低下
- 血糖値・血中コレステロール値の低下
*アメリカの研究調査報告書には、マインドフルネスの実践が体内のメラトニンレベルを上げることから、がんの予防に役立つ可能性があると示唆されています。
精神面における効果
- ストレスへの耐性の向上
- 不安の減少・鎮静
- 共感性の向上
- 幸福感の増加
*イギリスではNICE(国立医療技術評価機構)により、マインドフルネスと認知両方を組み合わせた「マインドフルネス認知療法」が、うつ病の再発予防プログラムとして推奨されています。
能力面における効果
- 集中力・記憶力の向上
- 自己認識力の向上
- 自己管理能力の向上
- 生産性・作業パフォーマンスの向上
マインドフルネスには、間違いなくさまざまな健康効果を引き出し、個人の能力や人間関係、生活の質を向上させる効果があると言えます。
ネイチャー・マインドフルネス
ネイチャー・マインドフルネスとは、自然の中で行うマインドフルネスのことです。
自然には、触れ合うだけでストレスを軽減させる効果があります。
ミシガン大学のハンター博士は、『フロンティアーズ・イン・サイコロジー』に掲載された論文のなかで、「自然を感じられる環境下で20~30分間過ごすことが、ストレスホルモンのコルチゾールを減少させるのに最も効果的だ」と述べています。
たとえ都会にいても、ふと立ち止まってあたりを見回せば、自然はそこかしこに存在しています。
マインドフルネスを実践する方法として、自然を利用することほど簡単で有効なものはないでしょう。
実践
準備:
スマホや携帯電話は電源を切るかサイレントモードにし、目に見えないところに置きます。
場所:
屋外の自然が感じられるところ。ビーチや森林など、自然に囲まれた場所のほうがより簡単にマインドフルネスを実践できますが、公園や庭のように人の手が加わった場所でもOK。
ステップ:
- マインドフルネスを行う場所についたら、まずはゆっくりと深呼吸します。
- できれば地べたに座るか、はだしになります。
- 目に映るものを4つ見つけて観察します。
- どう見えるか、どんな動きをしているか、色や質感はどんな感じか、それらを見ることでどんな気分になるか
- 触れられるもの・何もしなくても肌に触れるものを3つ選びます。
- どんな感触か、触ったことで何に気づいたか、どんな気分か
- 匂いをかぐことができるものを2つ見つけます。
- どんな匂いか、どんな気分になったか
- 音を1つ選んで、その音だけに集中します。
五感を開いて、小さな細部に気づいてください。
価値づけをしたり、判断を下すのではなく、ただあるがままを感じてください。
慣れないうちは、過去に、未来に、心がさまよい、雑念に気を取られるかもしれません。
しかし、そんな時はもう1度ゆっくりと呼吸して、目の前にあることに集中し直しせばいいだけです。
マインドフル・ガーデニング
マインドフル・ガーデニングも、自然の力を借りたマインドフルネスの1つです。
種をまき、水や肥料を与え、雑草を取りのぞく。
小さな芽がやがて大きく成長し、花を咲かせ、実をつける。
植物を育てていると、日々、育てている植物だけでなく、周囲の環境の細部にまで気を配る必要がありますし、ときには人間の力ではコントロールできないものを相手に、あるがままを受け入れるしかないこともあります。
ガーデニングを通じて、私たちは無意識のうちに観察眼や集中力を身につけていきます。
また、自分も自分以外のものも容認し、より効率的に物事を処理する方法を学び、最終的に計り知れない達成感や満足感を味わうこともできます。
実践
準備:
自分が育ててみたいと思う植物の種を用意します。
おすすめは育てるのが簡単な上に、香りや味わいが楽しめるハーブ類です。
庭や畑がない場合は、ベランダやバルコニーといった小スペース用のプランターや鉢、肥料や腐葉土などが必要です。
*手元にあるものを再利用すれば、コストの削減やSDGsにつながり、より意識的・効果的にマインドフル・ガーデニングを実践できます。
ステップ:
- 用意した土や種を手に取り、見た目や質感、匂いを感じ取ります。
- 種を土に落とし、水をやりながら、まいた種がどう変化していくか想像します。
- 水やりをするときは、常に種に、芽に、葉に、花に水がどんなふうに触れるかに意識を向けます。
- 成長に合わせて、植物そのものに触れ、細部を観察し、匂いを嗅ぎます。風の匂いや強さにも注意を向けます。
- 雑草を抜く時には、ネガティブな思いと結びつけ、一緒に捨て去るか、乾燥させて、肥料(ポジティブに置き換え)にします。(ポジティブに置き換え)
植物は、毎日きちんと注意を払っていないと、日照りや害虫のせいで枯れたり、病気になったりして収穫に至ることができません。
そういった意味では、ネイチャー・マインドフルネスよりもマインドフル・ガーデニングのほうが、実践を継続しやすいと言えます。
なお、たとえ植えたものがうまく育たなくても、失敗ではありません。
マインドフル・ガーデニングで最も重要なのは途中のプロセスの部分であり、きれいな花や実はあくまでも嬉しいおまけだと考えましょう。
マインドフル・エクササイズ
直に自然と触れあうのは難しいという人には、屋内でもできるマインドフル・エクササイズをおすすめします。
植物のライフサイクルを体感する旅
- 窓を開け、屋内に外気を取り入れます。
- 空気や風の動きを感じ、匂いを嗅ぎます。
- 身体を小さく丸め、種になった自分が地面に埋まっている様を思い描きます。
- 雨が降り、少しずつ身体が膨らんでいきます。
- ゆっくりと両手を伸ばして広げ、地表に芽を出します。
- 初めて太陽の光を浴びる感覚を味わい、同時に二酸化炭素(ネガティブなもの)を酸素(ポジティブなもの)に変えて周囲に与えるイメージで深く呼吸します。
- どんどん上へ伸びていき、腕も脚も完全に伸ばします。
- 暖かい日差しの中、穏やかな風を浴びたように、苗である自分の身体を揺らします。
- 両腕・両脚を大きく広げ、満面の笑みを浮かべて、しっかりと大地に根を張り、ついに花を咲かせた様を表現します。
- 虫たちが香りに誘われ、集まってくる感覚を味わいます。
- やがてまた小さく丸い種になって、地面に戻っていきます。
*植物に限らず、「卵→幼虫→蛹→成虫→卵」と姿かたちや動きを変える昆虫のライフサイクルを体感する旅もおすすめです。
最後に
自然の力を借りたネイチャー・マインドフルネスやマインドフル・ガーデニング、マインドフル・エクササイズは、日常生活の中に簡単に組み入れられるだけでなく、たとえマインドフルネスがうまくいかなくても、自然そのものから恩恵が受けられる実践法です。
おそらくこれまでよくある瞑想やヨガとの組み合わせでマインドフルネスを実践しようとして失敗したという人たちにも無理なく続けられるのではないでしょうか。