私は、活字中毒のビブリオマニアです。しかも購入する本の9割以上が翻訳ものの海外ミステリーという海外ミステリー中毒でもあります。
これまで大量の海外ミステリーを読んできましたが、今回ご紹介するのは、
- G7を始めとする先進国以外の国が小説の舞台になっている
- 謎解きや凶悪犯罪といった正統派ミステリーの要素が薄く、あまり頭を使わなくていい
- 物語の舞台である国の歴史や文化、人々の暮らしが垣間見える
海外ミステリーです。
「ミステリーっぽくないミステリー」と評されることも多い作品のリストなので、「そもそもミステリーとはどんなものなのか」についても説明します。
ミステリーとは
ミステリーの定義
「ミステリー」はギリシャ語の「mystērion(ミューステリオン)」を語源に持つ英語「mystery」のカタカナ語訳です。
本来の意味は「謎」「神秘」「不可思議」「怪奇」で、フィクションのジャンルとして使われる場合は「謎・神秘・不可思議・怪奇を軸にしたフィクション小説」を意味します。
ただ、日本では「ミステリー(小説)」と「推理小説」がほぼ同義で使われ、江戸川乱歩が1950年に『幻滅城』で語った「主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学である」というのが、ミステリーの一般的な定義とされています。(いわゆる「正統派ミステリー」と呼ばれるものです。)
ミステリーの種類
さて、一口にミステリーと言っても、その種類は様々です。
- 本格ミステリー(謎解き・パズラー):「謎+推理+解決」が基本の正統派ミステリー。トリックを解く面白さが売り
- ハードボイルド:孤独なタフガイが主人公のミステリー。謎解きよりも登場人物の人間臭さが魅力
- サスペンス:登場人物の心理描写に重点が置かれたミステリー
- 法廷ミステリー(リーガル・サスペンス):法廷が舞台のミステリー。「果たして被告は有罪か無罪か?」弁護人と検察のやり取りが最大の見どころ
- 警察ミステリー:刑事や捜査官が主役の、実際の犯罪捜査をもっとも反映したミステリー
- スパイミステリー:国家レベルの謀略戦の中で暗躍するスパイを主人公としたミステリー
また、分類の視点を変えれば、
- 社会派ミステリー
- 歴史ミステリー
- ユーモアミステリー
- ロマンチック・サスペンス
- コージーミステリー
- トラベルミステリー
- SFミステリー
と、列挙にいとまがありません。
海外ミステリー
ミステリーの本場
ミステリーの本場と言えば、ミステリーの生みの親とも称されるエドガー・アラン・ポーや「シャーロック・ホームズ・シリーズ」で有名なアーサー・コナン・ドイルを輩出したアメリカやイギリスでしょう。
そのせいか、日本で出版される海外ミステリーは、アメリカやイギリスを舞台にした、英語からの翻訳ものが圧倒的多数を占めています。
最近ではヨーロッパ(北欧3国・フランス・ドイツなど)の作品も増えてはいますが、いずれにせよ、海外ミステリーのプールは先進国ものでいっぱいです。
本場以外のミステリー
けれど事件は何も先進国だけで起きているわけではありません。
日本人にとって名前以外あまりなじみのない国にも、ありきたりの、そしてその土地ならではの事件があり、その地域に根差した探偵がいます。
ボツワナ:ミス・ラモツエの事件簿シリーズ ★★★★★
内容:
ボツワナで唯一の女探偵、プレシャス・ラモツエ(マ・ラモツエ)が、どの国にでもある詐欺や浮気調査から、アフリカならでは慣習が絡んだ事件までを人情味豊かに、アフリカ流に解決していくお話。
スリルやアクションや複雑なトリックは一切なし。マ・ラモツエの温かい人柄が作中の犯罪者だけでなく、読む人の心にまで染み渡ります。
著者:
ジンバブエで生まれ育ったスコットランド人。ボツワナ大学の設立に尽力し、ボツワナ刑法の執筆にかかわり、ボツワナで初のオペラのトレーニングセンター「No.1レディーズ・オペラ・ハウス」の創設に協力するなど、ボツワナの社会・文化に造詣が深い。
「ミス・ラモツエの事件簿シリーズ」その他の作品:
『キリンの涙』
『No.1レディース探偵社、引っ越しす』
『新参探偵、ボツワナを騒がす』
*現時点で、シリーズ全17作品中、日本語に翻訳されているのは4作品のみ。
ラオス:老検死官シリ先生シリーズ ★★★★★
内容:
72歳にしてラオス国内で唯一の検視官シリ・パイプーンが主人公。
共産国家として新生したばかりの混乱期という時代背景、国家権力の腐敗が絡んだ事件、命を狙われる危険と、正統派の要素がいっぱいなのにもかかわらず、田舎の素朴さ、風変わりな仲間との軽快なやり取り、シリ先生の霊感体質などコージー的な要素が満載です。
著者:
ロンドン生まれのイギリスとオーストラリアの二重国籍の持ち主。イスラエル、オーストラリア、アメリカ、日本など世界各地で教職に就いたのち、東南アジアでユネスコや児童虐待の被害者を救援するNGOの活動に参加。ラオスの子どもたちに本を送る活動にも注力。
「老検死官シリ先生シリーズ」その他の作品:
『三十三本の歯』
*現時点で、シリーズ全15作品中、日本語に翻訳されているのは2作品のみ。
アイスランド:『フラテイの暗号』★★★☆☆
内容:
今から約70年ほど前の西アイルランドの過疎の島を舞台に、無人島で発見された死体が持っていた謎の文字列と伝承の書『フラテイの書』に隠された暗号の謎を解明していく物語。
死体は出てくるものの、犯罪は起こらない。「アイスランド人の根底に流れる精神世界に触れることができる」(訳者あとがきより)独特の風土感や人間模様が魅力の癒し系ミステリーです。
著者:
アイスランド生まれの犯罪小説家であり、土木工学の学位を持つ公共道路局のフルタイムの職員。
*『フラテイの暗号』の日本語訳はアイスランド語から直接訳されたものではなく、ドイツ語からの重訳になります。
シンガポール:アジアン・カフェ事件簿シリーズ ★★★☆☆
内容:
シンガポールで名物カフェを営む老婦人アンティ・リーが素人探偵として、知人の死を捜査するお話。
推理の面白さよりもシンガポールの地理・文化・宗教観・社会問題、そして何よりも料理に関する情報が際立っていて、自宅にいながら旅行気分を味わえます。
著者:
シンガポールに生まれ、シンガポールに住み、シンガポールについて語る国内初のフェミニスト作家のひとり。
「アジアン・カフェ事件簿シリーズ」その他の作品:
『南国ビュッフェの危ない招待』
*現時点で、シリーズ全4作品中、日本語に翻訳されているのは2作品のみ。
インド:ベイビー・ガネーシャ探偵事務所シリーズ ★★★★★
内容:
警察を早期退職する日に突然赤ちゃん象を相続することになった元警察署長チョプラ警部が、インドの裏社会や貧富の差、権力者の汚職問題に立ち向かいながら、ある少年の死の謎を解明していく謎解きミステリー。
赤ちゃん象の「ガネーシャ」や警部の奥さんのポピーがいい味を出しています。
著者:
ロンドン生まれのイギリス人。ホテルグループの経営コンサルタントとしてインドのムンバイに滞在した10年間に、「ベイビー・ガネーシャ探偵事務所シリーズ」の着想を得る。執筆以外の時間は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの安全保障犯罪科学部に勤務。
「ベイビー・ガネーシャ探偵事務所シリーズ」その他の作品:
*現時点で、シリーズ全7作品中、日本語に翻訳されているのは1作品のみ。
最後に
「人脈に恵まれないのは運のせい⁉体験談から学ぶ仕事運を上げる自己啓発法」という記事の中で触れましたが、私はずっと英語にかかわる仕事をしてきました。また、翻訳コンテストで入賞し、「アメリカ短編小説集」の1作品を翻訳した経験もあります。
けれど海外ミステリーは、翻訳ものがある限り、日本語で読みます。なぜなら、ミステリーを読む理由が、基本的にはストレス解消のためだからです。
いちいち知らない単語に躓いていたのでは、逆にストレスが溜まってしまいます。
コージー系を推すのは、複雑な謎解きに頭を悩ませる必要がなく、読みながら大笑いしたり、読後ほっこりした気持になれるからです。
しかも、日本とはまるで違う外国が舞台の話には、新鮮な驚きがたくさん詰まっています。
今はまだ1作品+4シリーズしかご紹介できませんが、今後ビブリオマニアの本領を発揮して本を買いまくり、随時リストを更新する予定でいます。
ただ、一瞬でも翻訳業に携わり、翻訳・出版の裏側をチラ見した身としては、どんなにすばらしい作品でも、売れる見込みがあっても、出版されない作品が多々あると認めざるをえません。
今回ご紹介した作品の中には、すでに新品では手に入りにくくなっているものもあります。
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いずれにしろ、読めるうちに、みなさん、ぜひご一読ください!
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