昔から日本では「夢は神仏からのお告げだ」と信じられてきました。
中でも初夢には、その後1年の吉凶を占うという大事な意味合いがありました。
たとえ夢占いを信じていない人でも、どんな初夢を見るのか気になったり、自分が見た初夢にどんな意味があるのか調べたことがあるのではないでしょうか。
もしかすると、初夢占いをしたいのに、ほとんど夢を見ない、または夢を見ても覚えていないから、占えないという人もいらっしゃるかもしれません。
今回は、縁起のいい夢を見るためにできることと、残念ながら縁起の悪い夢を見てしまった時の対処法を紹介します。
夢のメカニズム
夢というのは、脳内でさまざまな情報・記憶・感情が組み合わさった結果生じると考えられている、睡眠中に見る映像のことです。
心理学では、①その日得た情報をきちんと整理して記憶する、②その記憶に関わる感情を処理するために、私たちは日々夢を見ると考えられています。
たまに「自分は夢を見ない」という人がいますが、実際には単に覚えていないだけだそうです。
夢を見るのは、基本的にはレム睡眠中(急速眼球運動と骨格筋活動の低下が特徴)がほとんどです。
*21世紀に入って以降、ノンレム睡眠中にもわずかながら夢を見ているらしいことがわかってきましたが、その多くが意味のない雑夢だと言われています。
レム睡眠とノンレム睡眠は約90分周期で変動しますが、上図からもわかるように、入眠の4.5時間後、6時間後、7.5時間後をはさんだ30~40分が、最も夢を見ている確率が高い時間帯と言えます。
縁起のいい初夢
どんな夢が縁起がいいかどうかは、万国共通というわけではありませんし、個人によって異なる可能性もあります。
そこで、ここでは日本で古くから縁起がいいとされている初夢をいくつか紹介します。
一富士二鷹三茄子
初夢に出てくると縁起がいいと言われるもののNo.1は富士(山)です。
①日本一高い山だから運気が上昇する、②末広がりで子孫繁栄につながる、③「不死(ふし)」や「無事(ぶじ)」に通じるため、不老長寿や家内安全が期待できる、というのがその理由です。
2番目の鷹は、①さっそうと大空を飛び回ることから自由の象徴とされ、②獲物をつかみ取ることから、チャンスを獲得する、③読み方が「高(たか)」と共通することから夢を実現させられると言われています。
3番目の茄子には、①「成す(なす)」との語呂合わせ、②昔は高級食材で庶民には手に入れにくいものだったことから、子や財を成す(蓄財を子孫繁栄)という意味があるほか、単に③実りの多い年になるという説もあります。
これらトップ3についてはかなり有名ですが、実は「一富士二鷹三茄子」には「四扇五煙草六座頭」という続きがあります。
四扇:末広がりの形と祭りなどで使用されたことから、子孫繁栄や商売繁盛を表しています。
五煙草:今でこそ健康に良くないと嫌われる煙草も、昔は立ち上る煙から運気上昇を意味していました。
六座頭:坐頭とは盲目ののことで、「毛がない=怪我ない」で、家内安全を暗示していました。
七福神を乗せた宝船
お金や打ち出の小鎚、米俵などを乗せた宝船の夢には、それだけでも開運の意味がありますが、そこに七福神がひとりでも乗っていると、さらに運気が上がります。
- 大黒天:五穀豊穣・財運
- 恵比寿:商売繁盛
- 弁財天:芸術や学業の成功・財運
- 毘沙門天:勝運
- 寿老人:長寿
- 福禄寿:幸福・財産・健康
- 布袋尊:子宝・良縁
七福神の有無にかかわらず、宝船を初夢で見た年は、飛躍の年になると言われています。
白蛇
古来白い動物は神の使いや神の化身と考えられています。
中でも白蛇は財運や成功をもたらす弁財天の使いとされていたので、白金色の蛇が初夢に現れると、続く1年、金運に恵まれると言われるようになりました。
*蛇以外の白い動物や、白金色以外の色の蛇の夢も運気上昇のサインです。
太る
「太る」を別の言い方で表すと、「豊満」「ふくよか」となります。
ダイエット中の人は自分が太る夢など見たくないと思うかもしれません。
けれど、太る夢は福がやってきて暮らしや人間関係が豊かになることを意味しています。
火事
夢の中の火事は、再生や生まれ変わりを暗示しているそうです。
火事の夢は、火事の場所や火事に対する行動などによって多少解釈に違いはありますが、基本的なところでは心機一転、これまでと違う自分を見つけたり、停滞していた状況に終止符が打たれることを意味する吉夢です。
なお、炎の勢いが強ければ強いほど、より高く運気が上昇すると言われています。
日の出
日の出の太陽は、これからますます輝きを強め、上昇していく状態にあります。
それと同様に、日の出や朝日を初夢に見るのは、今後運気が上昇することを意味しています。出逢いに恵まれたり、仕事運が高まる暗示だとも言われています。
縁起物としては、暗く寒い山道の先に待つ初日の出を拝むよりも、ぬくぬくと布団の中で日の出を初夢に見るほうが私好みです。
縁起のいい初夢を見る方法
初夢はいつ見る夢?
いつ見た夢を初夢と呼ぶかには諸説あります。
- 大晦日の夜から元日にかけて見た夢
- 元日から2日にかけて見た夢
- 新年を迎えてから最初に眠った日に見た夢
- 2日から3日に見た夢:江戸後期に主流
- その年初めて見た夢
- 松の内(元旦から7日、または15日)の間に見た夢の中で一番インパクトが強かった夢:
- 節分の夜から立春の明け方に見た夢:旧暦で正月を祝う場合
現在の多数派は「元旦から2日にかけてみた夢」または「新年を迎えてから最初に眠った日に見た夢」のようです。
けれど夢には、なぜか気になって深く心に残るものと、外からの刺激を受けたことが原因で見る、メッセージ性のない夢(雑夢)があります。
初夢は「新年を迎えてそれほど日数が立っていないころに見るインパクトの強い夢」くらいに捉えるのがいいのではないでしょうか。
見たい夢を見るには?
眠っている間に見る夢を意識的にコントロールするのは無理です。
けれど、いい夢が見られるように自分自身を誘導したり、眠り方を工夫することはできます。
七福神を乗せた宝船の絵
昔からの言い伝えによると、七福神の乗った宝船の絵を枕の下に敷いて寝ると吉夢が見られるそうです。
さらに、上から読んでも下から読んでも同じになる回文(以下参照)の和歌を、①絵に描き入れる、または②寝る前に3度唱えると、より効果的という話もあります。
長き世のとおの眠りのみな目覚め波乗り船の音の良きかな
(ながきよのとおのねふりのみなめざめなみのりふねのおとのよきかな)
夢違いのお札
江戸時代には、夢違いのお札(獏を描いた紙片)も枕の下に敷いて寝ると、悪夢が避けられ、吉夢が見られると信じられていました。
*獏:実在の獏ではなく、中国の架空の動物
イメージトレーニング
イメージトレーニングというのは、頭の中で自分が何かを達成、または成功しているイメージを思い描くことです。
スポーツや歌や芝居といったパフォーマンスの事前練習に利用されるイメージが強いかもしれませんが、いい夢が見たいときにも、それに似た方法が有効です。
やり方は、頭の中で自分が見たい夢を想像しながら眠りにつくだけ。
お化け屋敷に行った夜に怖い夢を見がちなのと原理には同じです。つまり、寝る直前に頭に、心に強いインパクトを与えて、無意識の自分を誘導します。
平安時代には、小野小町がいとしい人のことを思いながら眠り、その人が夢の中に現れるという「思い寝の夢」に関するのうたを詠んでいます。
1.思ひつつ 寝ればやひとの 見えつらむ
ゆめとしりせば さめざらましを
2.いとせめて 恋しき時は むば玉の
よるの衣を かえしてぞ着る
思い人の夢を初夢に見たいのであれば、さらに2首目のようにパジャマを裏返しにして寝るといいかもしれません。
リラックス
リラックスしていい眠りにつくことも、いい夢を見るために必須です。
なかなか寝付けなかったり、眠りが浅いと、心が落ち着かず、夢を見てもすぐに忘れてしまうような雑夢ばかりになりがちです。
パワーストーン
パワーストーンの中には、いい夢を見る手助けをしてくれる効果があると信じられているものがあります。
- アメジスト:精神的な平穏や安定をもたらすことで、良い夢を誘います。
- ムーンストーン:夜の月のエネルギーを受け取ることができると考えられていることから、良い夢を見る手助けをしてくれます。
- 水晶:心を浄化し、クリアな夢をもたらしてくれます。
- ラピスラズリ:洞察力や直感力を高め、良い夢の世界へと誘ってくれます。
また、アクアマリンもリラックス効果が期待できます。
こういったパワーストーンを身につけたり、枕元に置いておくのも、いい夢を見る手助けになるでしょう。
ハーブ
いい夢を見るのに効果的とされるハーブに、カモミール・ラベンダー・ローズ・オレンジがあります。
アロマとして取り入れるもよし、ハーブティーにして飲むのもよしです。リラックス効果や安眠効果が期待できます。
ドリームキャッチャー
ドリームキャッチャーは、北米のインディアンのオジブワ族に伝わる網を使った装飾品です。
オジブワ族の言い伝えでは、いい夢は網をすり抜けて眠る者のもとに届けられ、悪夢は夜の間に網や羽にからめ取られ、朝日を浴びると焼き払われてしまうそうです。
最大限の効果を期待するなら、朝日のあたる窓際につるすといいでしょう。
目を覚ますタイミング
せっかくいい夢が見られても、覚えていないのでは意味がありません。
そこで、意味のある夢を見ている可能性が高いレム睡眠中、具体的には入眠から6時間か7・5時間後に起きるように目覚ましをセットします。
*あくまでも入眠からの時間です。布団に入ってもすぐに眠れない人は、眠れずにいる時間を考慮に入れた時刻をセットしましょう。
縁起の悪い初夢を見た時の対処法
夢占いにおいては、必ずしも「いい夢=縁起がいい」「怖い夢・悪夢=縁起が悪い」というわけではありません。
縁起の悪い初夢は?
- 歯が抜ける夢:近々体調を崩す恐れがあるという警告夢です。
- 笑う夢:心身が緊張状態にあり、疲労がたまっているサインです。
- 追われる夢:プレッシャーを感じていたり、今の状況から逃げ出したい・自由になりたいと感じているときに見る夢です。
縁起の悪い初夢を見たら?
今よりもずっと初夢の意味が大事だったころから、日本人は様々な方法で縁起の悪い夢が正夢にならないように、様々な対処法を編み出してきました。
夢納め
奈良の法隆寺にある夢違観音は、その名の通り凶夢を吉夢に変えてくれる観音様だそうです。
縁起の悪い夢を見た時には、この観音様を拝みに行くのが一番ですが、それが無理なら近隣の神社仏閣に夢を修めに行くといいでしょう。
夢流し
七福神の乗った宝船の絵
吉夢を見ようと、七福神の乗った宝船の絵を枕の下に敷いて寝たにもかかわらず、凶夢を見てしまったときは、川に流して縁起直しをするといいそうです。
反対に、七福神の乗った宝船に限らず、絵のおかげで縁起のいい夢を見ることができた暁には、その絵を大切に保管しておきましょう。
短歌
『夢合延寿袋大成』(1814)には、紙に「見しゆめをばくのゑじきとなすからに心もはれしあけぼののそら」と3回書いて、夢を見た翌朝の4つ(午前10時)までに流れのある川に流せば、非常に悪い夢さえ消えると記されています。
夢の内容
絵や短歌ではなく、夢の内容を紙類に書いて水に流すだけでも、禍を払えると言われています。
話す
「話す」と「離す」の音が同じことから、縁起の悪い夢は人に話すと、自分の元から離れると言われています。逆に縁起のいい夢を見たときは、運を離さないように誰にも話さないことが大切です。
人ではなく、南天の木に話すといいという言い伝えもあります。
これは、南天に厄除けの力があると信じられていたことと、「南天=難を転じる」の連想に由来するもののようです。
呪文
夢頌
源為憲による『口遊』(970)には、「悪夢着草木 吉夢成寶玉(悪夢は草木に着け、吉夢は宝玉に成れ)」とあり、「悪い夢を見た人は桑の木の下に行って、この夢頌を3回唱える」という注釈がつけられています。
夢違い(ゆめたがい)の「吉備大臣夢違誦文歌」
平安末期の藤原清輔による『袋草紙』の4巻にある歌(以下参照)で、悪い夢を見た時に唱えると凶を吉に変えてくれると言われていました。
荒乳男の狩る矢の先に立つ鹿も違へをすれば違ふとぞ聞く
(あらちをのかるやのさきにたつしかもちかへをすればちかふとそきく)
「あしき夢をことごとくけす伝」
江戸時代には、夢流しにも使われる「見しゆめをばくのゑじきとなすからに心もはれしあけぼののそら」を3回唱えると、悪い夢が消えると言われていました。
獏
吉夢を運んでくると信じられていた獏は、魔除けの動物だとも考えられていたことから、「獏食え」や「ゆうべの夢は獏にあげます」と3回唱えると、災難が避けられると言われています。
参考資料:名島潤慈「日本における夢研究の展望補遺(I)古代から近代における夢の言葉」
最後に
生きている限り、私たちは必ず眠ります。
そして眠っている間には限りなくたくさんの夢を見ています。
どうせ夢を見るのなら、誰しもいい夢を見たいと思うはずです。
みなさんが縁起のいい初夢とともに、いい気分で1年を始められるよう祈っています。