最近立て続けにふたりの友人が「帯状疱疹のせいで痛みにもがき苦しんでいる」とフェイスブックに投稿してきました。
ひとりは痛みがひどく、入院、あわや手術かというところまで身体の状態が悪化したうえに、いまだに後遺症に苦しんでいます。
もうひとりは、実は症状が類似しているヘルペスだったことがわかりました。
今回は帯状疱疹とヘルペスの症状と治療に関する症例・体験談を患者目線で紹介します。
また、病気の種類に限らず、セカンドオピニオンの重要性についてもお話します。
*自分の湿疹と比較したい人用に、最後に帯状疱疹の写真を掲載しています。
帯状疱疹
帯状疱疹とは、免疫力の低下などに伴い、神経節に潜んでいたヘルペスウィルス科の水痘(みずぼうそう)・帯状疱疹ウイルスが活性化して発症する病気です。
通常、症状は体の片側、神経節がある場所なら全身どこにでも、広範囲かつ帯状に現れます。
- 症状1かゆみ・発熱・痛み(軽度)
約1週間
- 症状2ピリピリ、ずきずきする強い痛み+皮膚上に赤い水泡(みずぶくれ)の群
1週間から10日
- 症状3水ぶくれが破れて皮膚表面にただれ
数日
- 症状4かさぶたの出現と剥離
個人差はありますが、痛みの発現からかさぶたの剥離までは1か月ほどです。
ただし、かさぶたがとれたからといって、帯状疱疹ウィルスが死滅したわけではありません。残念ながら、ウィルスは神経節に潜伏し続け、免疫力が低下すると再び活性化してしまう可能性が否めません。
帯状疱疹は「胴巻き」とも呼ばれますが、子どものころ「胴巻きのぶつぶつが一周すると死ぬ」という噂がありました。
それで本当に死ぬとは思えませんが、もし湿疹がおなかを1周することがあれば、きっとアナコンダに身体を締め付けられるような痛みなんじゃないでしょうか。(まぁ、アナコンダに締め付けられる可能性のほうが、胴巻きにかかる可能性より低いそうですが…。)
帯状疱疹後神経痛(PHN)
帯状疱疹の皮膚症状は治まっても、帯状疱疹後神経痛(PHN)といった合併症(後遺症)に悩まされる可能性があります。
50歳以上になると帯状疱疹後神経痛への移行率が高く、60歳以上だと、患者さんの約半数に症状が現れ、痛みがおさまるのに数か月~数年、人によっては一生痛みが残ることもあるそうです。
症状:
①痛み:神経痛という名前の通り、ピリピリ・ズキズキ・電気が走るような痛みから、鈍い・痒みを伴う痛み・しびれといった皮膚の違和感まで、症状は様々です。
②不眠:痛みのせいで睡眠が困難になり、睡眠不足から体調が悪化します。
③集中力低下・意欲喪失・うつ状態:長期的に痛みが続くと気力や体力が失われ、うつの症状が出る場合があります。
帯状疱疹後神経痛の症状は人それぞれ異なりますが、確実に日常生活に支障を及ぼします。
ヘルペス
ヘルペスも免疫力の低下などに伴い、神経節に潜んでいたウイルスが活性化して発症する病気ですが、原因となるのは単純ヘルペスウイルスです。
- HSV-1:口唇や顔面に発症
- HSV-2:下半身や性器付近に発症
皮膚症状はかなり帯状疱疹に似ていますが、上述のように症状が出現する場所や、症状がおさまるまでにかかる日数が異なります。
- 症状1ピリピリした感じ・かゆみ
半日
- 症状2皮膚が赤くはれる
1~3日
- 症状3水泡(みずぶくれ)の出現
1~2週間
- 症状4水泡の乾燥後、かさぶたができて剥離
こちらも、やはりかさぶたが落ちても、ウィルスが死滅したわけではないので、再発(再活性化)の可能性があります。
ヘルペスって聞くと、性病のイメージが強いんですが、帯状疱疹も同じヘルペスウイルス科なんですよね?
だったら、帯状疱疹の人の唾液や体液、それに皮膚に触れたりすると、うつりますか?
ヘルペスのほうはおっしゃる通り、飛沫や皮膚接触で感染を広めてしまいますが、帯状疱疹は基本的には人にうつりません。
ただ、水疱瘡にかかったことがない、予防接種を受けていないお子さんに、水疱瘡を発症させる危険性はあります。
症例(症状・診断・治療)
患者1:ヘルペス
患者:
- 50代後半女性
- 間質性肺炎のため、免疫抑制剤を服用
- 高校3年時にもヘルペスを発症。そのときは三叉神経(左のこめかみ)に症状が現れ、その影響で視力が1.5→0.1に低下。
発症場所:肛門に近い臀部(おしり)。
- Day1かゆみがでる
シャワー中、かゆくて掻く。本人はあせもだと思っていた。
- Day3~痛みを感じ始める
注射針を何本も刺されているような痛みが電気のように走る。焼けるような痛みで立っていられない。ただし、横になっても痛すぎて一睡もできない。
近所の病院(婦人科)に行き、おしりの左右に1つずつ水疱があることから、ヘルペスと診断され、塗り薬と飲み薬を処方される。
その後、週に1回計4回通院。
- Day7~飲み薬の効果が現れ始める
- Day17~通院2回目で症状はほぼ治まる
- Day31最後の通院(4回目)終了
医者の診断:
- 発症場所からヘルペスだと考えられるが、HSV-1かHSV-2かは判明していない。
- 免疫抑制剤を服用しているため、今後も再発しやすい。
- 本来であれば、皮膚科を受診すべき。
患者の声:
今思えば、おしりに水泡ができる前に、口唇ヘルペスができていたような。
きっと口元を触った手にウィルスがうつって、それが排便のときかなんかにおしりにうつったんでしょうね。
ヘルペスは皮膚接触でうつるから、特に免疫力が落ちやすい中高年のみなさん、口唇ヘルペスができているときには触らないようにしないと。
あと、ヘルペスは自然治癒もあり得ますが、あやしいと思ったら、できるだけ早く皮膚科を受診したほうがいいです。
感染力が高いので、飛沫や接触で周りの人にうつしてしまうかもしれませんし、何よりも早く治療を始めないと、より長く地獄のような痛みにさらされることになるので。
患者2:帯状疱疹からの帯状疱疹後神経痛
患者:
- 70代後半女性
- 健康体
- ジョギングやトレッキングが日課
発症場所:お腹から腰、脚の付け根にかけて
- Day1おなかに湿疹が出る
本人はあせもかかぶれだと思っていた。
- Day2~腰、脚の付け根が痛み始める
整体、鍼治療に行く。発疹を見た鍼師から「帯状疱疹だから皮膚科を受診する」よう助言される。
- Day6~皮膚科クリニックを受診
抗ウィルス薬(1週間分)と塗り薬、痛み止めを処方される。
発症後
1週目:訳が分からない痛み。
2週目:針のむしろの上にいるような痛み。
3週目:神経の痛み。1日に数回の入浴で痛みを和らげようとするが、夜も痛みで眠れず、食欲もなくなる。
- Day21~水泡のかさぶたは取れるも、歩行困難になる
皮膚科クリニックの先生の紹介で2日後ペインクリニックに行き、ブロック注射を受ける。
注射後、尿漏れの症状が出始める。
- Day24救急救命センターへ
痛みが治まらず、立つことすらできない。うつ状態になり、生きる気力も失う。発熱し、気分も悪くなったため、救急車でERへ行き、レントゲンとCT検査。
点滴で熱は下がったものの、ERの医師から「痛みの原因に納得できない。整形外科を受診するように」と言われる。
- Day25~整形外科受診、脊柱管狭窄症の診断
5分間の問診とレントゲン撮影をするも、やはり痛みの原因がつかめず、MRI撮影。ただし痛みのため、正常での撮影ができず、横臥位での撮影。
画像を見た整形外科医から「脊柱管狭窄症の手術が必要。紹介状を書くので、入院し手術してもらうように」と告げられる。
- Day27~総合病院の整形外科受診
問診20~30分、脊髄レントゲン他の検査、MRI、全身の感覚チェックなどの後、医師から「痛みの原因はブロック注射しか考えられない。成分を聞いてくるように」と、紹介状をもらい、ペインクリニックへ届ける。
- Day32~痛みの原因判明
ブロック注射の成分が痛みと尿漏れの原因と判明。
同時に整形外科医が処方した痛み止めのせいで、肝機能が低下していることが判明したため、痛み止めの服用を中止。しばらく様子を見て肝機能に改善が見られない場合は、検査入院の可能性も。
- Day42~肝機能が改善する
帯状疱疹からの痛みもすでになくなり、食欲、体力がわずかだが戻り始める。
- Day54~痛みが軽減
お腹、腰、脚の付け根に痛みがあるものの、我慢できる程度に軽減。
- Day57~歩行訓練開始
5kg落ちた体重は変わらず、疲れやすく、体力の回復にはまだまだ時間がかかる。
- Day60~帯状疱疹後神経痛
何をするにも疲れる、集中力がない、鬱っぽい。
回復までには時間がかかることを受け入れ、焦らずストレスのかからない生活を送るようにする。
患者の声:
帯状疱疹についてまったく知識がなかったせいで、治療開始が遅れてしまったことが悔やまれます。
一時は何一つまともにできなくて、遺言書を用意しておけばよかったと思うくらい生きる気力を失っていました。
そして少しづつ痛みが減り、体調や体力が回復してきても、疲れやすく、気力が付いてこない…。
帯状疱疹後神経痛だったんだと気付くまでは、ストレスいっぱいの毎日で、今さらですが、ワクチンを打っておけばよかったと思いました。
それと、患者は病気の専門家じゃないので、医者の言うことをうのみにしてしまいがちですが、同じ患者を相手にしても、医者によって言うことが同じとは限りません。
私の場合、患者のことをよく観察し、じっくりと話を聞き、患者に寄り添ってくれるお医者さんに出会えるまで、本当に大変でした。
追記:
とても悲しいお知らせが届きました。
この症例の友人が、記事の公開から1か月もたたずに亡くなりました。
原因が帯状疱疹、または帯状疱疹の後遺症や治療薬の副作用だったのかどうかはわかりません。もしかするとすっかり免疫力が落ちていたせいで、他の病気を発症してしまったのかもしれません。
今はただ心からの冥福を祈っています。
セカンドオピニオン
セカンドオピニオンとは、患者が病気や治療への理解を深め、より納得して治療を受けるために、現在診療を受けている担当医とは別の医師に、治療の進行状況を伝え、次の段階の治療選択などについて「第2の意見」を求めることです。
原則として、セカンドオピニオンを求められた医師は治療行為等は行わず、意見や見解を述べるだけで元の医療機関に患者を戻しますが、結果的に別の医師が提供する治療を受けるために医師を変えることはあります。
厳密に言うと、患者2のケースはその時々の主治医が別の医師の診察を受けるよう患者を促しているので、患者の意思でセカンドオピニオンを受けたわけではありません。
けれど、「医者が変われば、病気の見立ても治療もここまで変わるのか」と改めて考えさせられました。
医師によってはセカンドオピニオンを嫌がる人もいると聞きます。
治療の開始が遅れたり、医療費の負担が増えるというデメリットもあります。
ただ、大切なのは患者自身が自分の病気を正しく理解し、納得のいく治療を受けることです。
「あの時ああしておけば」と後悔しないように、今の治療に不安がある場合や医師との信頼関係に疑問があるときは、迷わずセカンドオピニオンを求めるといいでしょう。
帯状疱疹の予防接種
過去に水疱瘡にかかったことがある人は、このウイルスに対する免疫を持っていますが、加齢とともに免疫が弱まり、その結果、帯状疱疹を発症することが多くなります。
そこで、ワクチンの接種で免疫力の強化を図ろうというのが帯状疱疹の予防接種です。
帯状疱疹ワクチンには、
- 不活化ワクチン:乾燥組換え帯状疱疹ワクチン。筋肉内接種2回。費用は2回で40,000円~60,000円程度。
- 生ワクチン:乾燥弱毒生水痘ワクチン。皮下接種1回。費用は7,000~10,000円程度。
の2種類があり、50歳以上であれば接種可能です。
*自治体によってはワクチン接種に対する費用に公費助成が受けられます。
帯状疱疹ワクチン接種費用助成自治体リスト(2023年8月時点)
*生ワクチンよりも免疫持続期間が長いため、費用が高く、接種回数が2回であるにもかかわらず、不活性化ワクチンを選ぶ人のほうが多いようです。
*予防接種の効果は100%ではありません。
*接種ができない人、あるいは注意を必要とする人もいます。(例えば免疫抑制剤を服用している人は生ワクチンを接種できません。)
*同じヘルペスウィルス科でも帯状疱疹の予防接種ではヘルペスの予防はできません。
患者2の例からもわかるように、帯状疱疹は下手をすると長期にわたって日常生活を脅かす危険性もある病気です。
特に帯状疱疹の発症リスクが高い中高年のみなさん、ツラい帯状疱疹を発症しないための選択肢の1つとして、ぜひ予防接種を考慮してみてください。
実際の写真
!!!かなり気持ち悪い写真です。!!!
この記事を公開した1か月後に、母が帯状疱疹にかかりました。(50代でも発症しているので、人生で2度目です。)
写真は最初の発疹(左下から中央にかけて)から約1週間後のものです。中央上と右下の湿疹は3日遅れで出てきました。
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