顔見知りの人から「娘さんに」って浴衣のセットをもらったんだけど、どうしたらいいの?
「贈答」とは
日本人は人から何かをもらうと、ほとんどの場合、お返しをするのではないでしょうか。
「贈答」という言葉は、「贈=(気持ちを込めて)与える」と「答=(相手に)報いる・返す」の意味を持ち、すでに日本語として使われている英語の「ギフト (Gift) 」や「プレゼント (Present) 」とは明らかに意味が違います。
実際、何かをもらったときに、相手に「つまらないものですが」とか「お返しは結構です」と言われたとしても、もらいっぱなしでお返しをしないと、たいていの日本人は何とも落ち着かない気分になるようです。
贈答の起源と歴史
贈答の起源については、日本人のほとんどが農耕民族だった時代に、天災を避けてもらおうと、あるいは収穫に感謝して、神に供物をささげたのが始まりだと言われています。
その後、人々の間でその供物を分け合ったり、お互いの収穫をおすそ分けしたりするようになり、「贈る人」⇒「贈られる人」と一方向だった「もの」の動きが、「贈る人」⇔「贈られる人」の双方向へと変わっていきました。
ちなみに、正式な場での贈り物に熨斗をつけたり、金封が白い紙を折って包んだものなのも、もともと贈り物が神への供物だったことを考えると不思議はないでしょう。
「贈答」と「ギフト」の違い
アメリカ人の多い職場にいると、上述のような質問をよく受けます。
もちろん、アメリカ人にもお返しやおすそ分けの概念はありますが、先ほども述べたように、基本は「ギフト=与えること」です。
子供の誕生を祝う際の贈り物を例に、日米の風習を比較してみると、違いがよくわかると思います。
アメリカ:
- (子供が誕生する前に)親族・友人・同僚らが集まってベビーシャワーを開き、母親となる女性に贈り物を渡す。
- 場合によっては、相手の欲しいものをあらかじめ聞いておき、リクエストにあった品物を参加者が分担して用意する。
- 受け取ってすぐ、その場で中を確認する。
- 大きなサイズのギフトは包装紙に包まれていたり、単にリボン(またはリボンのシール)がついただけの状態で渡される。
- 小さいサイズのギフトはおしゃれなビニールや不織布のバッグに入れて、口をリボンで留めるか、紙の袋に入れ、その上にギフト用のティッシュペーパーをくしゅくしゅにして置いた状態で渡される。
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ひと昔前のアメリカのドラマや映画では、プレゼントの包装をビリビリ破く場面が見られましたが、アメリカンスクールの授業で、小学4年生がどうするか試してみたところ、半数以上が丁寧に時間をかけて包装紙を外していました。
日本:
- (子供が誕生した後に)親族・友人・同僚らが自分たちの選んだ品物か金銭を贈る。
- 贈るのが金銭の場合は金封に入れて、品物の場合は単に包装紙に包むか、さらに「お祝い」の熨斗をつけて送る。
- 贈り物を受け取ってすぐその場で開けるのは失礼にあたる。(ただし、友人や家族から品物が贈られた場合、送り主から「開けてみて!」と言われ、すぐに開ける人が多くなってきている。)
- 受け取った側はもらった品物、あるいは金銭の半額程度の品物を、包装し「内祝い」の熨斗をつけて贈り主に「お返し」として贈る。(若い人の間ではこの慣習は廃れつつあります。)
日本に暮らし、贈答文化の日米の違いについてある程度知っているアメリカ人なら、だからこそ、1.日本人のようにお返しすべきか、2.お返しするなら何がいいか、と困ってしまうのです。
その上、日本のお返しは時に延々と続くので、3.いったいいつまで続ければいいのか、と悩み、中には「最初からもらわなければよかった」とか「アメリカ人なんだから、”Thank you”だけで終わりにしておけばよかった」と、日本文化を尊重した自分の礼儀正しい行動すら後悔する人が出る始末です。
「贈答」と「ギブアンドテイク」の違い
「贈答」と「ギフト」の違いは分かったけれど、英語には「ギブアンドテイク」という言い回しがあるじゃないかと思われるかもしれません。
「ギブアンドテイク」の意味は「ギブ=与える」「テイク=(もらうではなく)取る」で、日本語の言い回しで近いのは「持ちつもたれつ」です。ギブアンドテイクに贈答の意味はなく、むしろビジネスの場面で、「平等」や「対等」の関係を表すときなどに使われます。
田舎のお年寄りには「ギヴァちゃん」が多い?
1980年代に一世を風靡した方のことではありません。
【ギヴァちゃん】語源は英語の giver(ギヴァー)
1.友人、知人、親族、同僚、隣人のみならず、その日会ったばかりのよく知らない人にまで、ただで何かをあげる人。
2.誰かに何かをあげることに喜びを感じる人。基本的には見返りを求めない。
3.一つ間違えると、相手が欲しいかどうかにかかわらず、ものを押し付ける人。おせっかい。
『まなまなfamily語録』より
出雲に帰省して以来、とにかくギヴァちゃんに出くわします。
「お彼岸でぼたもち作ったから…」「今年は大根がいっぱいできて…」「この間タケノコもらったんで…」「親戚がお魚くれたんで…」
と次から次へとギヴァちゃん(別名:母の友人、ほぼ全員70-80才代)が現れます。
その分かち合いの精神は素晴らしいと思いますし、ありがたいとも思いますが、これから夕飯というときに、ぼたもちと魚がいっぺんに来ると、罰当たりなことに感謝の気持ちも半減してしまいます。
ただ、何を隠そう、身内(母)からして最強レベルのギヴァちゃんなので、田舎のお年寄りにギヴァちゃんが多いのではなく、ギヴァちゃんの周りにはギヴァちゃんが集まるということなのかもしれません。
おまけ:「テイ君」とは?
先ほど「ギブアンドテイク」の説明で「テイク=取る」だと書きましたが、「ギヴァちゃん」の対極にいるのが「テイ君」です。
【テイ君】語源は英語の taken(テイクン)
1.「もらう」という行為を当然の権利とみなし、くれた相手に対して感謝をしない人。
2.他人の功績を自分の功績のように話したり、もらったものをまるで自分のもののように第三者にあげて、自分の手柄にする人。
『まなまなfamily語録』より
かくいう私自身も相当なギヴァちゃんなので、身内や仕事でお付き合いのある方たちから、大量の野菜や果物、お菓子が届くと、自分の取り分の何倍もの量を、職場に持って行ってバラまいていました。
その際、ギヴァちゃんである以上、見返りやお返しは求めていませんでしたが、残念なことに何人か「テイ君」の同僚がいて、いやな気分になったものです。