今回は、海外コージーミステリーの中でも、ユーモアミステリーと評されているシリーズ作品を紹介します。
ただし、ユーモアのセンスや笑いのツボは人それぞれ違います。
ユーモアのタイプ
ユーモアには4つのタイプがあると言われています。
- 親和的:他者との結びつきを強めることを目的とした傷つく人のいないユーモア
- ダジャレやジョークなど
- 自己高揚的:困難な状況等を笑い飛ばしたり、おもしろみを見出したりして、自分自身を元気づけることが狙いのユーモア
- 自虐的:自分を欠点や失敗、未熟さを笑いに変えて、他者を楽しませるユーモア
- 自虐ネタなど
- 攻撃的:他者をからかったり中傷して傷つけるユーモア
- 毒舌や嘲笑など
笑いのポイントやツボは、この4種類のうち、どのタイプをおもしろいと思うかで決まります。
そして、そのポイントやツボへのはまり具合で、微笑みのようなかすかな笑いから涙が出るほどの大笑い、バカ笑い、苦笑い、相手をバカにしたリ見下したときに浮かべる嘲笑や冷笑と、生まれる笑いが変わります。
ときに「ユーモアミステリーだと言われて読んだのに、全然笑えなかった」ということがあるのは、その作品に使われているユーモアが、読んだ人の好むユーモアのタイプではなかったからかもしれません。
*以下に紹介するシリーズ作品にはユーモア度を付けていますが、あくまでも私の笑いのツボにはまったかどうかを基準にしています。
新作(翻訳本)の出版予定あり
海外では定期的に新作が発売されている、シリーズ継続中のユーモアコージーミステリーのうち、日本でも翻訳本の出版が予定されている、割と最近の作品を紹介します。
ジャナ・デリオン『〈ワニの町へ来たスパイ〉シリーズ 』
内容
前回の潜入任務でへまをしたせいで、ルイジアナ州にある田舎町シンフルに身を隠さざるを得なくなった秘密工作員フォーチュン。到着したその日に保安官助手に目をつけられ、家の裏手では人骨を発見してしまう。
自分とは正反対のおしとやかな女性を演じるはずが、気づけば町を牛耳る地元婦人会の老婦人たちに焚きつけられて、一緒に人骨事件の真相を追うはめに。
ユーモア度:★★★★★
凄腕なのにどこか抜けてるキャラの主人公と元ベトナム帰還兵で防諜工作にも携わっていた過去を持つガ―ティーのハチャメチャぶりに、思わず吹き出してしまいます。ドタバタ喜劇のような場面満載のお話です。
その他の作品
- 『ミスコン女王が殺された (創元推理文庫)
』
- 『生きるか死ぬかの町長選挙 (創元推理文庫)
』
- 『ハートに火をつけないで (創元推理文庫)
』
- 『どこまでも食いついて (創元推理文庫)
』
- 『幸運には逆らうな (創元推理文庫)
』
- 『嵐にも負けず (創元推理文庫)
』
- 『町の悪魔を捕まえろ (創元推理文庫)
』
リン・メッシーナ『行き遅れ令嬢の事件簿シリーズ』
内容
舞台は19世紀イギリス。
幼い頃に両親を亡くし、叔母の家に身を寄せるさえない令嬢ベアトリスが、叔母一家とともに参加したハウスパーティーで、頭部を殴打された男性の死体を発見する。現場にはもう一人、頭脳明晰、ハンサム、極めて高慢で鼻持ちならない公爵が…。
うんちくを語ると止まらない公爵と、それに対して平然と痛烈な皮肉を返すベアトリスが、互いをライバル視しつつも協力して事件の真相を探るお話です。
ユーモア度:★★★☆☆
公爵とベアトリスの丁々発止と、上流階級のしきたりや常識にとらわれた叔母さんの言動にニヤッとさせられます。
その他の作品
- 『公爵さま、いい質問です (コージーブックス)
』
- 『公爵さま、それは誤解です (コージーブックス)
』
- 『公爵さま、前代未聞です (コージーブックス)
』
- 『公爵さま、これは罠です (コージーブックス)
』
ジジ・パンディアン『<秘密の階段建築社>の事件簿シリーズ』
内容
ショーで起こった事故が原因で人気イリュージョニストの地位を追われたテンペスト。秘密の部屋に特化した建築社を営む実家に戻り、家業を手伝うことになったが、幼馴染のアイヴィに連れられて行った仕事場で、自分の元替え玉で、キャリアをぶち壊した張本人の死体に遭遇する。
いったい誰が、どうやって、密室に死体を置いたのか。
不可能犯罪付きの本格ミステリーのようで、一族の呪いやらちょっとしたロマンスやら、インド料理のレシピやら、とにかく盛沢山なお話です。
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作
ユーモア度:★☆☆☆☆
設定のおもしろさや魅力的なキャラクターはいるものの、主人公の悩みなど、ちょっと重いところがあって、私の笑いのツボにははまりませんでした。
その他の作品
ジェス・Q・スタント『<ミセス・ワン>シリーズ』
内容
夫に先立たれ、一人息子とは疎遠になりつつある、サンフランシスコ在住の中国系移民のミセス・ワン60歳。ある朝、自らが営む中国茶専門のティーハウスで、死体を発見する。
刑事ドラマ好きが高じて、警察が来る前に死体の周りに輪郭を描いたり、握りこぶしの中からUSBメモリを盗ったりとやりたい放題。おまけにSNSに掲載した死亡記事に引き付けられてきた4人の若者を容疑者と見なし、お茶と料理をエサに事件解決を図ろうとする。
ユーモア度:★★★☆☆
年寄りなら何をしてもかまわないと思っているミセス・ワンの傍若無人で猪突猛進な言動に、思わず「おいおい!」とツッコミを入れたくなります。
その他の作品
2025年4月にシリーズ2作目が刊行される予定です。
\ユーモア度:★★★☆☆/
ヴァシーム・カーンの『ベイビー・ガネーシュ・エージェンシーシリーズ』(次作が翻訳されるかどうかは?ですが)もおすすめです。
新作(翻訳本)の出版予定なし
海外の作品を日本で翻訳して出版するには、翻訳権を取得する必要があります。
そしてこの翻訳権が高騰すると、出費に見合った売り上げが見込めないかぎり、どの出版社も海外作品の出版を控えるようになります。
次に紹介する作品は、そういった事情により現在英語でしかシリーズの最新作を読めなくなっています。
また、購入しようにも、中古のもの(たった1円だったりしますが)しか見つからないかもしれませんが、個人的にはイチ押しなので、あえて紹介します。
ジャネット・イヴァノヴィッチ「ステファニー・プラム・シリーズ」
内容
30歳、バツイチ、特技なし、資格なしのイタリア系アメリカ人ステファニー・プラムは、失業の憂き目にあったことから、逃亡者を捕まえて警察に引き渡すバウンティハンター(賞金稼ぎ)の仕事を新たに始める。といっても、銃を持った経験すらなく、運と根性だけで突っ走った結果、ピンチに陥り、捕まえるはずの逃亡犯(元警官で元カレのモレリ)に助けられる。
向こう見ずで短絡的なおバカキャラのステファニーにはたしてバウンティハンターの仕事が務まるのか。
ハードボイルドっぽいタイトルに完全に騙されるお話です。
CWA(英国推理作家協会)賞最優秀処女長篇賞受賞作
ユーモア度:★★★★★
吹き出してしまう可能性が高いので、公共の場では読まないほうがいいでしょう。
その他の作品
アメリカでは現在31作目まで発売され、2025年には32作目も出版予定となっていますが、日本では2009年に発売された『あたしの手元は10000ボルト』(シリーズ第12作目)が最後です。
- 『あたしにしかできない職業 (扶桑社ミステリー) ジャネット イヴァノヴィッチ/著 細美遥子/訳
』
- 『モーおじさんの失踪 (扶桑社ミステリー イ 4-3)
』
- 『サリーは謎解き名人 (扶桑社ミステリー イ 4-4)
』
- 『けちんぼフレッドを探せ (扶桑社ミステリー イ 4-5)
』
- 『わしの息子はろくでなし (扶桑社ミステリー イ 4-6)
』
- 『快傑ムーンはご機嫌ななめ (扶桑社ミステリー イ 4-7)
』
- 『やっつけ仕事で八方ふさがり (扶桑社ミステリー イ 4-8)
』
- 番外編『お騒がせなクリスマス (扶桑社ミステリー イ 4-9)
』
- 『九死に一生ハンター稼業 (扶桑社ミステリー イ 4-11)
』
- 『カスに向かって撃て! (集英社文庫 イ 4-1)
』
- 『バスルームから気合いを込めて (ステファニー・プラム・シリーズ) (集英社文庫)
』
- 『あたしの手元は10000ボルト (ステファニー・プラム・シリーズ) (集英社文庫)
』
- 番外編『勝手に来やがれ (ステファニー・プラム・シリーズ) (集英社文庫)
』
最後に
今回は、ユーモアのタイプと、海外でシリーズ継続中(2025年3月時点)のユーモアコージーミステリーシリーズを紹介しました。
あなたはどのシリーズをいちばんおもしろいと思うでしょうか。
もし私とユーモア度の評価が似ているようなら、きっと笑いのツボも似ているはずです。