不登校の児童・生徒の中には、発達障害がある(または発達障害の特徴は見られるけれど、診断基準を満たしていないグレーゾーンにいる)と診断される子どもたちが少なくありません。より正確に言うと、不登校になった原因を突き詰めていった結果、発達障害と診断される子どもたちがいます。
そういった子供たちの保護者の中には、自分の子どもの独特な言動に診断名が付いたことで、「今後のサポートに方向性が見えた」と安堵する人がいます。けれどその一方で、「不登校になるまで勉強に問題はなかった。むしろできるほうだったのに、障害があると言われても納得できない」と診断結果に疑問を抱いたり、否認する人がいるのも事実です。
結論から言うと、医師によって発達障害やグレーゾーンだと診断されたのであれば、その診断は間違っていないでしょう。ただ、間違っていないからといって、100%正しいとも限りません。
特に不登校以前の成績が優秀だった子どもたちは「2E」である可能性が否めません。発達障害の診断には心理検査が含まれますが、その検査で発達状況(凹凸)の凸に注意が払われていなかったかもしれないからです。
今回の記事は発達障害(またはグレーゾーン)と診断された不登校児童・生徒の保護者向けです。中でも、
- 診断に納得できない
- 発達障害に特化したサポートを続けても状況が改善しない
という人向けに、①2Eとは何か、②どうやって診断するのか、③2Eだとわかった場合、保護者としてどう接すればいいのかお話します。その際、2Eと発達障害は切り離せない関係にあるので、発達障害についてもその定義や特徴、検査や診断方法についておさらいします。
また、2Eだと気づかれず、十分なサポートを受けられないとどんな弊害があるのかも、実例を挙げて紹介します。
発達障害と2E(定義と特徴)
発達障害とは?
2005年に厚生労働省より施行された「発達障害者支援法」では「発達障害」を以下のように定義しています。
発達障害
自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの
発達障害者支援法
発達障害はその特徴から以下の3種類に大別できます。
発達障害の種類 | 主な特徴と症例 |
自閉症スペクトラム障害 (ASD: Autism Spectrum Disorder) |
社会性に乏しく、対人関係やコミュニケーションが困難。過敏性または鈍感性。こだわりが強く、パターン化した行動を好む。言葉の発達の遅れや独特な言い回しが見られる。 ー自閉症 ーアスペルガー症候群 ー高機能自閉症 ー広汎性発達障害など |
注意欠如・多動性障害 (AD/HD: Attention Deficit/Hyperactivity Disorder) |
集中力がない、じっとしていられない、思いつくと行動してしまうといった症状が見られる障害。 |
学習障害 (LD: Learning Disabilities) |
全般的な知的発達に遅れはないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」のが困難。 ーディスレクシア(読字障害) ーディスグラフィア(書字障害) ーディスカリキュリア(算数障害)など |
2Eとは?
2E教育において日本の遥か先を行くアメリカでは、「2Eの児童・生徒」を以下のように定義しています。
2E(トゥーイー):Twice-Exceptional(二重に特別な)の略
連邦または州によって定義された 1 つまたは複数の障害を持つ、高い潜在能力を持つことが顕著なギフテッドの子供。
Twice Exceptional: Definition, Characteristics & Identification(日本語意訳は著者による)
文部科学省の参考資料では「2E」を「特異な才能と学習困難とを併せ持つ児童生徒」のように表現しています。
けれど国内では「2E」を「=ギフテッド+発達障害」ではなく、「=ギフテッド」または「≒ギフテッド」のように、ギフテッドと混同している節があります。
そこで、「2E=ギフテッド+発達障害」を強調するためにも、この記事内では、
「1つまたは複数の発達障害を持つ、特定の分野において高度な知識や突出した才能に恵まれているGifted(ギフテッド)の子ども」
という意味で2Eという言葉を使用します。
以下は2Eの主な特徴になります。
- 情報の捉え方や処理方法が独特で、批判的思考力と問題解決能力に秀でている
- 感情的および知的に敏感である可能性が高い
- 特定のものに対するこだわりや強い集中力が見られる
- 対人関係やコミュニケーションが苦手で、問題行動につながりやすい
- 知的能力は高いが、ディスレクシア(読字障害)やディスグラフィア(書字障害)が潜んでいる可能性がある
検査・診断の流れ
医療機関を訪れる目的ー2Eが見落とされるわけ
子どもが不登校になった場合、保護者がまず訪れるのは学校や教育支援センターでしょう。大半は「子どもにまた学校に通うようになってほしい」と願い、不登校問題の解決法や子供への対処法について相談します。
けれどそれだけで状況が改善されるケースはまれです。そこで次の手段として、
- 市町村の子ども家庭支援や福祉サービスを訪ねたり、心理カウンセラーに相談する
- 不登校問題に関する講演会を聞きに行く
- 同じ悩みを抱えている保護者同士で集まる
- 不登校に関する記事を読みまくる
など、さらに情報を集めます。するとそのうちに誰かから、あるいは何かから発達障害の可能性について示唆されます。
調べると、日本で発達障害の診断を下せるのは医師だけだとわかります。(注:医師による診断がなくても、公的な教育支援や福祉サービスを利用することは可能です。)
ほとんどの保護者はそういった流れで医療機関にたどり着き、「本当に子どもに発達障害があるのか、あるとすればどのようなもので、どの程度の障害なのかを知るため」に医師の検査・診断を受けます。
実はこれが2Eの中でもギフテッドの部分が見落とされる原因の1つです。つまり検査・診断を受ける前から、関係者の関心は発達の状況(凹凸)全般にではなく、凹(障害)の方に向かいがちなのです。
さらにもう1つ、ギフテッドの部分(凸)が医療ではなく教育の専門分野だということも、2Eについて言及されない理由として考えられます。言及したところで、ギフテッドのための教育や支援に関する公的な指針や体制が今の日本にはないという事実も関係しているのでしょう。
発達障害の検査・診断
発達障害かどうかの検査や診断は小児科や児童精神科、小児神経科、発達外来等で受けられます。
通常、診断には①面談(問診・保護者へのヒアリング)、②行動観察と心理検査(障害の種類によってはMRI検査・スクリーニング検査あり)が含まれ、その結果を国際的な診断基準に照らし合わせて総合的に発達障害かどうか、障害の種類や程度に関しての判断がなされます。(注:検査だけで発達障害かどうかの診断はできません。)
ちなみに最終的な診断までの受診は複数回に及び、受診期間が長期にわたることも珍しくありません。
面談:問診および保護者へのヒアリング
受診は面談から始まります。よく聞かれる質問は、
- 出産時の状況(母子手帳を用意しておくとよい)や病歴・成育歴
- 現在の問題点
- 家庭や学校での様子
などになります。
行動観察と心理検査
「百聞は一見に如かず。」面談中の様子も含め、実際の行動を観察することは非常に重要で、心理検査の中では発達検査が適しています。
なお、日本では小中学生を対象とした心理検査に以下の3種類がよく使われます。
検査名 | 種類 | 対象年齢 | 特徴 |
新版K式 | 発達検査 | 0-成人 | 1対1の個別式 自然な行動が観察しやすい 発達の水準や偏りを姿勢・運動、認知・適応、言語・社会の3領域から評価 結果は発達指数(DQ)で表示 |
田中ビネー知能検査 | 知能検査 | 2-成人 | 1対1の個別式。 日本人の文化やパーソナリティ特性、生活様式に即した問題内容 言語、動作、記憶、数量、知覚、推理、構成の7領域を年齢尺度(同年齢の水準との比較)から評価 ジェスチャーによる問題提示とパフォーマンスによる回答方法 知能指数(IQ=精神年齢÷生活年齢×100)を評価 |
ウェスクラー式知能検査 (WISC-IV) |
知能検査 | 5-16歳 | 1対1の個別式 個人の能力のばらつき(発達の凸凹状況)を見る 10の基本検査から5つの合成得点(全検査IQ+4つの指標得点:言語理解、知覚推論、作業記憶、処理速度 )を算出 最新版WISC-Vあり |
診断基準
発達障害の診断には以下の2つのうちいずれかが使われますが、WHOに加盟している国には疾患統計の報告にICDを使う義務があるので、日本では公式な診断や報告にはICDを使用しています。
国際疾病分類名 | 作成機関 | 分類の対象 |
ICD-10/11 「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」第10・11版 |
WHO (世界保健機関) |
疾病全般 |
DSM-5 「精神疾患の診断・統計マニュアル」第5版 |
アメリカ精神医学会 | 精神障害: ー知的能力障害群 ーコミュニケーション症群/コミュニケーション障害群 ー自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害 ー注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害 ー限局性学習症/限局性学習障害 ー運動症群/運動障害群 ーチック症群/チック障害群 |
2Eの検査・診断方法
前に述べたように、2Eは発達障害を伴うギフテッドなので、検査には発達状況全般(障害と才能の両方)を測ることが可能なものが必要です。現在、国内で一番よく使われているのは、ウェスクラー式知能検査(WISC-IV)ですが、2Eの診断にために検査したというよりも、発達障害を調べるために受けたら、結果的に2Eだとわかったというパターンが多いようです。
他にも病院によっては脳の機能状態を見るQEEG検査(定量的脳波検査)を導入しているところがあるようです。
なお、1つ注意すべきなのが、どの検査も創造的能力・芸術的、能力・リーダーシップといった知的能力以外の才能については測定できないという事実です。そのため、最終的には発達障害の診断時のように面談(問診・保護者へのヒアリング)や行動観察、そこに2Eの場合は各種の受賞歴なども加えて総合的な判断の材料とします。
診断後の治療とサポート
発達障害の治療としては、障害の種類や症状によって薬物治療が行われる場合があります。これは病気の治療と違い、あくまでも症状をコントロールまたは緩和させることが目的です。
サポートについても、発達障害は「発達障害者支援法」のおかげで、学校と自治体の両方で療育や個別学習指導計画(IEP)といった支援が利用可能です。
けれど2Eに特化した公的なサポートや支援はいまのところありません。ようやく来年度(令和23-24年)から文部科学省がギフテッド教育に乗り出すということなので、今後は2Eを含む行政面・教育面での支援体制の確立が期待されます。
ただ「自分の子どもが発達障害ではなく2Eかもと考えている」または「発達障害に特化したサポートを続けても状況が改善しない」という保護者に対して、「来年度までじっと待ちましょう」とは言えません。そこで、前職(米軍基地教育事務所勤務)で得た知識と経験をもとに、保護者の立場からのサポートについて、いくつか提案したいと思います。
保護者のサポート(提案)
最初に断っておくと、私は医師でもなければ、発達障害教育やギフテッド教育、2E教育の専門家ではありません。けれど、米軍基地内の学校には発達障害やギフテッドのためのプログラムがあり、日本語・日本文化を教える日本人教師のために、指導主事として発達障害やギフテッドの児童・生徒たちとのかかわり方を学ぶ必要がありました。
要するに、以下に挙げる提案はあくまでも私の個人的な体験に基づくものです。決して状況の改善を保障するものではないので、試すか試さないかは自身でご判断ください。
- 発達の状況(凹凸)全般を知るための検査を受け、(すでに受検済みの場合は凸の部分の再確認をして)2Eかどうかはっきりさせる。
2Eまたはその可能性が高かった場合は、発達障害のサポートに以下を付け加えます。
- 才能の部分を伸ばす環境を用意する。
- 学校に行かせようとするのではなく、ホームスクールで子どもに合ったギフテッド教育を提供します。その際、個別学習用教材としてお勧めなのが、多くのギフテッド教育関係のNPOが採用している「新不登校 無学年制教材!対話型アニメーション、インターネット教材【すらら】です。【すらら】の家庭学習者の中には一定条件のもと、不登校でも出席扱いの認定を受けている児童・生徒もいます。興味のある方は資料請求や無料体験を試してみるのはどうでしょう。
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- 批判的思考能力や問題解決能力を高める課題を与えます。アメリカの学校のギフテッドの授業ではよく知育パズルや「陣取り」のような対戦型のボードゲームを取り入れていました。
- 子どもの自己肯定感を高める。
- 子どもの話にきちんと耳を傾け、価値を認めていることを示します。
- 小さな成功体験を経験させ、成果の達成をしっかりとほめます。
- 集団活動への参加を促す。
- 不登校が続くと社会性が育つ機会が失われます。例えばスポーツを習ったり、サマーキャンプに行くなど、ストレスを与えない程度に集団活動への参加を促していきます。
実例:2Eを発達障害と見誤った場合の弊害
ここで紹介するのは米軍基地内の小学校で実際におこった話です。(注:本人が特定されないよう事実とは異なる描写が含まれます。)
子どもの情報:
- アメリカ人の小学1年男児A君。
- 一人っ子。父親はコンピュータープログラマー。母親は教育関係の専門職。
- 両親とも修士号を取得。子どもに対して期待が高く、過干渉。
経緯:
小学校に入学して2か月ほどたったころ、A君が母親に「他の児童から叩かれたり、服を引っ張られたりしている」と告白。母親がすぐさま担任に連絡を取るが、担任からは「いじめはない」との返答がくる。
翌日、母親がクラスを訪問し、ボランティアとして担任の手伝いをしながらクラスを観察。いじめはないようだが、学習内容・レベル・進度には不満足。そこで子どもにギフテッドの授業を受けさせるべく、資格認定のプロセス開始を学校長に依頼する。(米軍基地では、校内でギフテッド教育が受けられるかどうかは、児童の観察・児童へのインタビュー・保護者の意見・教師の意見・児童の作品ポートフォリオ・成績評価・学力テスト・能力テスト等のデータをもとに、校内のギフテッド委員会によって決定されます。)
ギフテッド認定のプロセスが始まったのと同じころ、担任からA君の問題行動に関する報告がくる。
- 課題をやらず、周囲の子にちょっかいを出す。あるいは動き回る。
- 時間内に課題を終えられなかったことに腹を立て、机の下に潜り込んで喚く。
- えんぴつを折る。
A君は行動の大部分を否定。両親は担任に対し、「課題が簡単すぎることが原因」と説明し、子どもに合った高レベルの課題を与えることを要求する。
その後も同様の問題行動が続く。この期間、両親の要求した高レベルの課題は与えられていない。
学校と保護者との間で複数回の話し合いが持たれる。最終的にA君は「ギフテッドの授業を受ける資格あり」とは認定されず、発達障害のサービスをオファーされる。
両親は納得がいかず、独自に算数と読み書きの学力を測るテストを実施。学校側にA君は算数で小学2年生、読み書きは小学3年レベルだと主張するが、ギフテッドの授業は受けられないまま。
そんなある日、A君が担任の手に鉛筆を突き刺そうとする。大事には至らなかったが、暴力行為により1週間の停学処分を受ける。(アメリカでは小学校にも停学があります。)
考察:
保護者への提案の項でも述べたように、私は医師でもなければ、発達障害教育やギフテッド教育、2E教育の専門家でもありません。けれど、22年の長きに渡って、発達障害やギフテッドの子どもたちと接してきた経験から、おそらくA君は2Eだと思います。
「でもギフテッドの授業を受ける資格はないと認定されたじゃない!」と思われるかもしれませんが、「授業を受ける資格ありと認定される」のと「ギフテッドだと認定される」のは同じではありません。決定のために集められたデータがA君の発達状況全般を網羅していたかどうかも怪しいですし、何よりも両親のヘリコプターペアレンツぶりが、委員会の判断に悪影響を及ぼしたような気がします。
もしA君が、保護者を含む関係者全員から「ギフテッド+発達障害=2E」と認められ、発達障害のサポートだけでなく、ギフテッドのサポートも受けられていたら、停学になるほどの問題行動を起こすことはなかったと思います。
2Eだと気づいてもらえないせいで、学校生活にストレスを抱えている児童・生徒は、日本だろうとアメリカだろうとたくさんいるのではないでしょうか。そしてそういった子供たちの中には、A君のようにストレスを外に向ける子もいれば、不登校や引きこもりのように自分の内側に向ける子もいるでしょう。
最後に
自分の子どもが発達障害なのか、2Eなのか見極めることは非常に重要です。子どもにとって最適なサポートを提供するために、ぜひ2Eかどうかはっきりさせてください。
2Eだとはっきりしたら、無理に学校に行かせようとはせず、ギフテッドの部分も伸ばせるサポートをお子さんのために用意してあげてください。
参考資料: